「生涯投資家」でわかった村上ファンドの村上世彰氏が志したものとは?

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生涯投資家

村上ファンドの村上世彰氏は、なにを志していたのか?

それはコーポーレート・ガバナンスです。生涯投資家でわかった生い立ち・逮捕の真相・志を紹介します。


生涯投資家

初版:2017年04月18日

著者:村上世彰

投資家村上世彰は、なぜ生まれたのか?

 

投資家の資質について、村上世彰氏は3割はDNA、7割は経験と述べています。そして、そのDNAは投資家である父親から受け継ぎ、経験も父親に与えてもらったところが大きいと語っています。

投資家の資質というのは、三割はDNA的に受け継ぐもので、七割は経験だと思う。私は全体の三割を占めるDNA部分を、父から受け継いだ。小さい頃から数字が得意だったし、投資に対するセンスもあると自負している。その上、これまでの経験の半分は父からもらったものだから、私を投資家たらしめたのは父だと実感している。投資家の子どもとして生まれた私は、なるべくして投資家になったのだ。

そして、父親から村上世彰氏へのお金の教育で、ひとつのエピソードを紹介しています。

父の仕事は投資家だった。いつも、「お金はさみしがり屋なんだ。みんなで戯れたいから、どんどん一カ所に集まってくるんだよ」と言っていた。そう聞いた私は子ども心に「もっとお金を貯めたら、もっと増やせるんだ」と信じ、できる限り貯金をしていた。

なんだか自己啓発本に書かれていそうな言葉ですが、それを自然に言えるところがすごいです。成功哲学が当たり前の感覚だったということなのでしょう。他にもお金に関して、一般人の感覚と180度異なるエピソードが、あります。

両親は、私が大学に入るまで毎年十一万円を贈与し、私の名義で株を買い続けてくれた。なぜ十一万円かというと、当時は十万円までの贈与は非課税だった。十一万円なら千円の贈与税が必要なので、納税記録が残る。将来、私の財産だということが証明しやすくなるからだ。贈与分はトータルで二百~三百万円だったが、買ってくれた株の価値は二千万円くらいになったと記憶している。

200万の元本を株式投資で2000万まで増やしてくれたというエピソードも驚きですが、それ以上に贈与税のところに感覚の違いを感じました。

普通の感覚であれば、贈与税を取られたくないので、毎年10万のお小遣いにするという判断になると思います。ところが、財産の所有権の証明になるため、あえて贈与税が発生するようにお小遣いの金額を設定していたのです。これが投資家の感覚なのかと、自分との感覚の違いに驚かされました。

お金

そうした父親の教育のもと、村上世彰氏も自然と投資の世界に入っていきます。なんと、投資デビューは小学3年生だったと言います。

自分で株への投資を始めたのは小学三年生の時だ。ある日、父が百万円の帯付きの札束を置いて、こう言った。
「世彰は、いつも小遣いちょうだいと言うが、いま百万円あげてもいい。ただしこれは、大学を卒業するまでのお小遣いだ。どうする?」
見たこともない大金を目の前に、私は興奮した。それでも冷静になって、計算した。
「お父さん、大学卒業までだったらあと十四年もあるから、百万円じゃ少ないよ。大学入学ならちょうど十年だから、年間十万円になる。だから、大学に入るまでのお小遣いにして!」
そうお願いして、十年間のお小遣いを一括前払いということで、百万円の現金を手にした。この百万円を元手に、株の投資を始めた。まず半分の五十万円で、一株二百数十円だったサッポロビールの株を二千株買った。これが私の投資デビューだ。

もちろん、小学3年生では手続きはできないので、母親を通じて株式投資をおこなっていたそうです。しかし、小学3年生で100万円の札束を眼の前に置かれて、冷静に計算した上で交渉までするとは…。本当にすごいです。

投資の神様ウォーレン・バフェットも11歳で、投資を始めたと言います。ウォーレン・バフェットの場合も、父親は投資家だったそうです。そう考えると、投資家としての資質の3割はDNAだという話は、とても説得力があります。

そして本書には、父親のかばん持ちとしてエルサルバドル、メキシコシティ、ニューヨークの投資案件を検討して回ったり、不動産の目利きを教えてもらったりしたことも書かれています。なるべくしてなったという言葉通り、父親の教育のもと投資家村上世彰は生まれたんだということがよく理解できます。

なぜ、村上世彰氏は逮捕されたのか?

考える

村上ファンドで有名だった村上世彰氏は2006年にインサイダー容疑で逮捕されます。その後、裁判で有罪判決を受けます。

同時期に堀江貴文氏も逮捕されて、とてもセンセーショナルだったので鮮明に覚えている人も多いと思います。(ちなみに、堀江貴文氏と村上世彰氏の逮捕はまったく別件です)

では、なぜ村上世彰氏は逮捕されたのでしょうか?

容疑はインサイダー取引で、それはニッポン放送の株取引でのことでした。覚えている方も多いと思いますが、当時のニッポン放送はフジテレビの親会社となっており、時価総額よりも遥かに巨大な資産を持っているという歪な状態でした。

そこで、インターネットとTVの融合を掲げて、堀江貴文氏のライブドア社がニッポン放送の買収を仕掛けたのです。ニッポン放送を買収できれば、なんとテレビ局(フジテレビ)までついてくるという状態だったからです。例えて言えば、1万円の財布を買ったら、中に50万円が入っている、みたいな状態です。とはいえ、ニッポン放送だってそんな簡単に買えるわけではないですが…

この一連の騒動において、村上世彰氏はインサイダー取引を行なった容疑で逮捕されたのです。その具体的な内容を紹介します。

ライブドアの堀江貴文氏が私に言った「ニッポン放送の株式を五%以上買いたい」という趣旨の言葉がインサイダー情報に該当するとされ、その情報を元に株の取引を行なって利益を上げたという容疑で、私は逮捕されたのだった。しかし実現可能性がほとんどないような情報が「インサイダー情報」に当たるのだろうか。さらに、言葉のイメージの問題ではあるが、私は会社の内部から情報を得たわけではないので、「インサイダー取引を行なった」といわれることには正直、非常に違和感がある。

そして、こう続きます。

あの時の堀江氏の話は、ニッポン放送内部の未公開情報ではないし、当時のライブドアの財務状況を考えれば実現には程遠かった。いわば彼の「夢」や「願望」にすぎず、インサイダー情報に該当するなど予想もしなかった。該当すると思っていたら、すぐに対応したはずだ。実際にその後、堀江氏が「外国人から株を買いたい」と具体的な依頼をしてきた時点で、私は即座にニッポン放送株の取引を停止するよう社内に命じている。

つまり、外部の人間である堀江貴文氏がした「ニッポン放送の株を買いたい」という発言がインサイダー情報に該当すると判断されたということです。もちろん、これはニッポン放送の内部の情報ではありません。さらに購入手続きを進めているとか、そういう具体的な話でもなかったのです。

ニッポン放送は上場企業ですから、日夜いろんな人がニッポン放送の株を売買しています。「○○社の株を買おうかな。どう思う?」なんて話は、どこにでもある普通の会話のようにも感じます。これで有罪の判決が下されるとは、非常に厳しい判断だったと思われます。

そして、この判決に対して、村上世彰氏自身はこう述べています。

遠い将来から振り返ってみた時、私にだけ適用された判例になるのではないか、単なる「村上バッシング」だったのではないか、とさえ疑ってしまう。「あの時いったい何が起きていたのか」といまだに思う。十年たった今でも、何度考えてみても、違和感をぬぐえずにいるのだ。

ちなみに、堀江貴文氏が有罪となった事件も、極めて厳しい判決でした。容疑は粉飾決算だったのですが、これのどこが粉飾なのか?という内容です。もちろん、架空の利益を計上したなんていうことはしていません。2000億以上もの架空の利益を計上した東芝に逮捕者が出ず、堀江貴文氏が逮捕されたということには違和感しかないです。

堀江貴文氏が有罪になったライブドア事件については、投資家藤沢数希氏がこの本で詳細に解説しています。気になる方は、読んでみてください。

参考:日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門

日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門

村上世彰氏は、なにを志したのか?

村上世彰氏が志していたのは、コーポレート・ガバナンスの普及です。コーポレート・ガバナンスとは、投資家が中心となって企業の不正行為の防止や企業価値の増大を促す仕組みのことです。

投資家が経営者を監督する仕組みが、コーポレート・ガバナンスである。日本でも2015年にようやくコーポレートガバナンス・コードが制定され、株主の立場や権利が重視されるようになった。企業にとってのステークホルダーである株主、従業員、取引先について、それぞれのリスク内容を考えてみると、従業員の給料や地位は労働法によって保障されている。取引先は契約によって担保されている。ところが株主は、会社が倒産の危機に陥った時すべてのリスクを負わなければならず、場合によっては投資した資金の全てが戻ってこない。そういった意味で、企業が生む利益のみならずリスクも全部背負う株主が、投資した資産をいかに守るかということがコーポレート・ガバナンスの根源だ。

これを理解するには、会社は誰のものか?という問いに答える必要があります。

答えは、株主です。(念のためですが、株主のものだからと言って、好き勝手やっていいという意味ではないです)

もちろん、従業員なくして会社は成り立ちません。経営者がいなければ、推進力を失ってしまいます。顧客も会社にとって生命線です。なので、会社は株主のものという言葉に違和感を感じる人もいると思います。

ただ、不動産(家)で考えてみてください。家主は社長にあたり、家族は従業員にあたるとしましょう。その不動産が賃貸である場合、不動産はオーナーのものです。もちろん、持ち家であれば家主のものとなるでしょう。会社も同じです。

上場企業の場合は、賃貸の不動産に住んでいる状態です。一方、非上場で社長が出資者の場合は、持ち家の不動産に住んでいる状態です。

ただし、日本ではこうした認識が浸透しておらず、会社は社長のものという考えが強いです。

そのため、多額の役員報酬を支払ったがために赤字になる企業があったり、社長宅の家賃や家政婦が経費で支払われるなど公私混同をされていたりすることがあります。これらを是正するのも、コーポレート・ガバナンスです。

そして、コーポレート・ガバナンスで、経営を客観的に判断する指標のひとつがROEであると述べられています。

ROE(Return on Equity=投下資本利益率)は、コーポレート・ガバナンスのひとつの指標であり、投資した金額に対して利益がどの程度生まれるかを示す。すなわち、当期純利益/純資産という式で算出できる。投資家にとっては、自らの投資したお金がどれだけ効率的に利益を生ん でいるかを知る指標だ。
企業がROEを高めるためには、当期純利益を高くするか、純資産を減らすか、という二つの方法しかない。当期純利益を上げるためには、利益を高める努力が必要だ。純資産を減らすためには、自己株式の取得や配当などで投資家へ還元することになる。日本の上場企業では、投資家と経営者の意識する指標が分離している場合が多い。投資家はROEの向上を求めるが、経営者は安定経営のために手元に資金を確保したい気持ちが強い。それが純資産の過剰な増大につながるため、ROEは米国に比べて著しく低く推移している。

ROEとは、(株主から出資された)資本をどれだけ効果的に利益に転換しているかを示しています。ROEを見れば、効果的な経営がされているか否かがわかるのです。そのため、不当に高い報酬や無駄な経費などで、社長が会社を私物化することを防ぐのにも有効なのです。

ただ残念ながら、日本企業はこのROEが非常に低い水準となっています。米国では15%前後を推移していますが、日本では40年近く10%を割った状態が続いています。その結果、市場全体が非効率な状態に陥っていると村上世彰氏は警告しています。

日本企業のコーポレート・ガバナンスへの対応の遅れは、株式市場の成長において、数字としてはっきり表れている。日本の株式市場の規模は、およそ五百~六百兆円。アメリカの株式市場の規模はおよそ二千兆円だから、日本の三~四倍の規模となっている。しかし上場している企業数は、いずれも二千数百社と大して変わらない。違うのは株価倍率(PBR)だ。日本のTOPIX企業の平均のPBRが1~1.3倍程度なのに対し、米国のS&P500のPBRは3倍弱となっている。大雑把な計算だが、このPBRの値を市場全体に当てはめてみると、日本の上場企業の純資産と米国の上場企業の純資産は、ほぼ変わらないことがわかる。
これは純粋に、同じ規模の純資産を保有する企業であるにもかかわらず、日本企業の価値は株価に反映されていないということを意味している。日本の企業が将来的に、現在の資産以上の価値を生み出すと期待されていない、と言い換えることもできる。

社数も資産も同程度であるのに、市場規模が3〜4倍も違うとは…

村上世彰氏は日本経済の発展に、コーポレート・ガバナンスの浸透が欠かせないと考えていました。なので、「物言う株主」として村上ファンドを運営し、様々な会社の経営に提言してきたそうです。

本書を読むと、本当に村上世彰氏が、この志のために心血を注いできたということが、よくわかります。並外れた能力や集中力、行動力をもって、日本社会を変えようと尽力してきたということが、よくわかる本でした。

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