
書籍名:国境の南 太陽の西
著者名:村上 春樹
出版日:1995年10月4日
出版社:講談社
内容・要約
子供が一人だけという家庭が珍しかった時代に、一人っ子として育った始(はじめ)は自分の家庭は他の家庭と違うということに引け目を感じていて疎外感を持っていました。そんな時に同じく一人っ子として同じような気持ちを抱えていた島本さんという女の子と出会い、小学生ながらに気持ちを共有して日々を過ごして行きます。卒業後それぞれ別の学校に進学したために疎遠になり会うことがなくなってしまうのですが、島本さんへの特別な気持ちは残ったままでした。高校、大学へと進学し、就職と結婚を経た後に独立してジャズバーを開業、絵に描いたような順調な人生を送っていきます。仕事も家庭も円満そのものであったところに大人になった島本さんが現れ、始(はじめ)の人生と精神に大きな波紋が投げかけられます。
印象に残った箇所
その写真は僕の胸を痛くさせた。その写真を見ていると、僕は自分がこれまでにどれほど多くの時間を失ってしまったのかを実感することができた。それはもう二度と戻ってくることのない貴重な時間だった。どれだけ努力しても二度と取り戻すことのできない時間だった。それはそのときのその場所にしか存在しなかった時間だった。
所感
心理描写が巧みなのはさすが村上 春樹氏です。特別な相手から感じる吸引力、人を傷つけて感じる罪悪感、人生において二度と取り戻すことのできない時間を失ったことへの喪失感など感情移入できる描写が多かったです。不倫についての話のようにも見えるのですが、島本さんを幽霊として登場させており、別のメッセージがあるのではないかと、考えさせられます。人生について様々な角度から考えるきっかけになった作品でした。