
書籍名:春にして君を離れ
著者名:アガサ・クリスティー
出版日:2004年4月16日
出版社:ハヤカワ文庫
内容・要約
第二次世界大戦前夜。主人公・ジョーンは弁護士の夫、立派に成長した三人の子どもを持つ、裕福で若々しい主婦。娘を見舞った帰路、鉄道宿泊所で思いがけない足止めをくらった彼女は、有り余る時間と孤独の中で思索の沙漠へと彷徨い出てしまいます。それまで見まいとしてきた事柄が次々と浮かび、彼女の周囲の人間の<真相>に気付き、慄き、赦しを得ようと思い至ります。が、ロンドンに帰宅したジョーンの取った選択は・・・
印象に残った箇所
断片的な、こまぎれの真相。ここにきて以来、少しずつ明らかになりつつある事実。わたしはそれを繋ぎあわせるだけでいいのだ。
わたしのこれまでの生活――ジョーン・スカダモアについての事実。
それこそここで、わたしをまちぶせていたものなのだ・・・・・・
わたしのこれまでの生活――ジョーン・スカダモアについての事実。
それこそここで、わたしをまちぶせていたものなのだ・・・・・・
所感
主人公が沙漠を彷徨いながら核心に近づいていく場面の描写は、良質の舞台演劇を見ているかのようです。また主人公の容貌が、年齢に対して非常に若作りに表現されている点が印象的。苦労を知らない裕福な女性というだけでなく、内面に葛藤を抱えたことがない、成熟とは程遠い人物だということがよくわかります。夫視点からのエピローグには、何度読んでも身震いさせられます。自分の家庭はこんなことになっていないだろうか?と考えさせられます。