「マネー・ボール」メジャーの球団経営に学ぶ一人勝ちの方法とは?

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マネー・ボール

うちの業界は古くて、非効率なんだよな…

そう嘆いている方、朗報です。誰かの”効率の悪さ”は、別の人にとって”チャンス”だからです。

メジャーの球団経営に学ぶ一人勝ちの方法をシェアします。

マネー・ボール

初版:2013年04月10日

出版社:ハヤカワ文庫

著者:マイケル・ルイス

なぜ、貧乏球団が一人勝ちできるのか?

ケーキ

1990年ごろ以降、「野球はスポーツではなく金銭ゲームになってしまった」と嘆く球団オーナーが多い。たしかに、チーム間の貧富の差はほかのプロスポーツにくらべてはるかに大きく、しかも広がる一方だ。2002年のシーズン開幕の時点でみた場合、ニューヨーク・ヤンキースの選手年俸がしめて1億2600万ドルなのに対し、資金力にかけるオークランド・アスレチックスやタンパベイ・デビルレイズの年俸総額は三分の一以下、つまり4000万ドル程度にすぎない。

そして、こう続きます。

これだけはっきりと格差がある以上、大物選手を雇えるのは金持ち球団だけ。資金の乏しい球団は、どこか欠点を抱えた選手しか集められず、したがってろくな成績を望めないー少なくとも、おおかたの球団経営者の主張だ。

メジャーリーグの世界にも資本主義の原理が働いています。成績の良い、価値のある選手は、お金持ち球団に集まります。一方で、貧乏球団は好成績の選手を雇うことができません。予算が三分の一しかなければ、選手の質もそれに合わせて落ちてしまうのです。

ところが、2000年以降こうした常識を覆す、チームがあります。

各地区最下位には、レンジャーズ、オリオールズ、ドジャーズ、メッツといった名前が並んでいる。大金をはたいたにもかかわらず、惨憺たる結果に終わったわけだ。その対極に位置するのがオークランド・アスレチックス。総年俸は全チームのなかで下から数えたほうがよほど早いが、レギュラーシーズンの勝利数はここ数年つねにトップレベルを保っている。三年連続でプレーオフに進出し、とくに2000年と2001年には、年俸最高額を誇るヤンキースをぎりぎりまで追いつめた。不思議としか言いようがない。なにしろヤンキースのほうは「金が運命を握る」という考え方の典型例だ。

そうです。オークランド・アスレチックスです。2002年には20連勝をし、なんとメジャーの連勝記録を更新しています。

貧乏球団と言われるオーランド・アスレチックスが、なぜ強いのでしょうか?「選手育成が上手だから」ではありません。そこには、経営の違いがありました。

答えのまずひとつめは単純明快だ。すなわち、メジャーリーグの世界でも、肝心な点はやはり、資金をどれだけたくさん持っているかではなく、どれだけ有効に活用できるかにある。わたしが初めてアスレチックスの本社を訪れたのは2001年シーズン終了時。この年、アスレチックスはわずか3400万ドルの総年俸で、なんと102勝を挙げた。前年には2600万ドルで91勝し、地区優勝を果たしている。

そうです。野球でも経営は投資効率です。1勝あげるために必要な資金を算出して、比較してみると、アスレチックスの投資効率が群を抜いていることがわかります。

2001年から2002年までを平均すると、オークランド・アスレチックスは、約50万ドルで1勝できた計算になる。100万ドル未満で1勝したチームは、ほかにはミネソタ・ツインズ(67万5000ドル)しかない。逆に、効率の悪い例として、たとえばボルティモア・オリオールズやテキサス・レンジャーズは、勝ち星ひとつ増やすのに300万ドル近く費やしている。アスレチックスの6倍以上だ。
とにかくアスレチックスは投資収益率が格段にいい。普通の業界なら、とうの昔にライバルを片っ端から買収して、一大帝国を築いているだろう。しかし野球業界はそうはいかず、よその金持ち球団を当惑させるだけにとどまっている。

6倍…同じ経費で6倍も成果をあげられたら、間違いなく業界の革命児です。実際にメジャーリーグは、アスレチックスの成功を手本に多くの球団が経営方法を変革しています。

次章以降では、具体的にどのようにアスレチックスが一人勝ちしていったのかを紹介します。

ウォール街も、こうして淘汰された

お金

アスレチックスが一人勝ちした経営手法を紹介する前に、ウォール街の話をします。

なぜ?と思われるかもしれませんが、1980年代にウォール街に起きた変革とアスレチックスがメジャーにもたらした変革は、とても似ているからです。

ウォール街と聞くと、わたしは金融工学を学んだ優秀な若者が闊歩しているような印象を受けます。ところが、それは1980年代以降のことのようです。

1980年代はじめ、アメリカ株式市場は大きな転換期を迎えた。コンピュータの普及と知識の発展があいまって、先物取引市場や金融オプション市場にまったく新たな可能性が広がったからだ。先物取引やオプション取引は市場全体に占める割合こそわずかだが、かなり複雑な内容になってきたので、”金融派生商品(デリバティブ)”という新語でくくられるようになった。金融派生商品は、従来の株式や債券とは異なり、価値を明確に定量化することができる。

そして、こう続きます。

10年近くのあいだ、いち早くこの仕組みを把握した者がやすやすと大きな利益を手に入れていた。このたぐいの計算が得意な人間は、ありきたりなトレーダーではない。高度な知識を持つ数学者、統計学者、科学者などだ。彼らはハーバード大学やスタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学での研究を捨てて、ウォール街で巨富を得た。このような優秀なトレーダーが莫大な利益をつかんだことにより、ウォール街の文化は一変し、勘ではなく定量分析が重んじられるようになった。金融派生商品が誕生した結果、リスクの見きわめがより正確に、売買がより効率的になって、金融取引は危険に満ち満ちているという長年の常識が覆った。

つまり、1980年代コンピュータの出現によって、ウォール街は一変したのです。デリバティブという価値を定量化できる商品が流通し始めて、過去の勘や経験で判断していたトレーダーが一掃されました。

その過渡期の10年近くは、新しい手法をいち早く取り入れた人たちが、富を独占することになったのです。まさに、誰かの”効率の悪さ”は、別の人にとって”チャンス”であることを証明したのです。

そして、このウォール街と同じことが1990年代のメジャーリーグには言えました。本書に、このような会話が出てきます。

困ったことに、メジャーリーグは閉鎖的な組織なんです。新しい知識を呼び込む土壌がない。関係者は全員、選手か元選手です。よそ者の侵入を防ぐため、一般企業とは違う構造になっています。自分たちのやりかたを客観的に評価しようとしません。いい要素を取り入れ、悪い要素を捨てるという仕組みが存在しないんです。全部まるごと取り入れるか、まるごと捨てるか、どちらかです。ただし、”まるごと捨てる”のほうはめったにやりません。」

そのため、非効率・非合理的なやり方を見直すこもなく、繰り返していたのです。実際にウォール街が一新される要因となったコンピュータに、メジャー球団が示した関心は非常に低かったようです。

競争の激しい市場分野では、普通、テクノロジーをいち早く理解した者が優位に立つ。資本主義ではそうだった。野球界も同じであるはずだった。分析という名の魔法をあやつる技術者が、球団の運営責任者として頭角を現してもいいはずだった。ちょうど、ウォール街でコンピュータエンジニアが幅を効かせたように…。
1980年代初め以降、メジャー球団の経営者がたまにやったことといえば、パソコンのスイッチの入れかたを知っている人間を数人雇っただけだった。コンピュータに格別な興味はない。遠い異国モロッコで、群がってくる現地人に飽き飽きした旅行客がやむなくツアーガイドをひとり頼む、というぐらいの意味合いしかなかった

その1980年代に、いち早くコンピュータを導入し、正しく活用していれば…。その球団の一人勝ち間違いなかったでしょう。

そして、それを実行する球団が1990年代に出てきます。そうです、アスレチックスです。次章ではアスレチックスが行ったことを具体的に紹介します。

勘と経験が幅を利かせる世界は、宝の山だ!

考える

さきほど、アスレチックスがコンピュータをいち早く活用したと書きました。しかし、誤解しないでください。コンピュータの活用が、アスレチックス成功の要因ではありません。

アスレチックスが成功した要因は、もっと深いところにあります。

アスレチックスの成功の原点は、野球の諸要素をあらためて見直そうという姿勢にある。経営の方針、プレーのやりかた、選手の評価基準、それぞれの根拠…。アスレチックスのゼネラルマネジャーを任されたビリー・ビーンは、ヤンキースのように大金をばらまくことはできないと最初からわかっていたので、非効率な部分を洗い出すことに専念した。
新しい野球観を模索したと言ってもいい。体系的な科学分析を通じて、足の速さの市場価値を見きわめたり、中級メジャー選手と上級の3A選手は何か本質的に違うのかどうかを検証したりした。そういう研究結果にもとづいて、安くて優秀な人材を発掘していった。

さらに、このような記述もあります。

過去の試合データを調べた結果、試合中の戦術から選手の評価方法まで、すべてを科学的にやって行くほうが有利だという証拠が得られたからだ。もはや、旧来の野球人の勘に頼っていてはいけない。データをもっと科学的に分析すれば、根拠のない通説にまどわされずに済む。
たとえば、得点力を評価する場合、チームの平均打率に注目するのがこれまでの常識だった。ところが、冷静に比較分析してみると、チームの総得点と平均打率は関連が薄い。むしろ、出塁率や長打率のほうが、総得点とはるかに密接なつながりを持っている。また、多くの監督を有名にしたサインプレーーバンド、盗塁、ヒットエンドランなどーは、たいてい的外れか自殺行為だとわかった。「監督がこういう作戦に出るのは、わが身が安全だからだ。失敗しても、監督は非難を受けない」とアルダーソンは切り捨てる。

そうです。アスレチックスは長年「正しい」とされていた野球観を一度すべて捨てたのです。そして、ゼロベースで野球を見直しました。

その結果、本当に勝利に関連している要因を抽出し、独自の野球観を作り上げていきました。もちろん、こうした見直しができた背景には、コンピュータやインターネットの出現があります。

過去には、できなかった膨大な量の情報を分析したり、再評価したりすることができるようになりました。分析に必要な計算能力もデータ量も、コンピュータとインターネットのおかげで賄うことができました。

しかし、長年の「正しい」野球観を疑ったり、壊したりすることは容易なことではありません。培ってきた経験やノウハウをゼロベースで見直せたことが、アスレチックス成功の本質的な要因です。

ちなみに、アスレチックスが独自の野球観を築き上げた結果、他球団と大きく違いが出ている部分があります。それは選手評価です。

これは当然のことです。他球団では打率、打点、盗塁数などは評価されます。しかし、アスレチックスでは評価されません。盗塁は、むしろ自殺行為とみなされます。盗塁王を狙える選手でさえ、アスレチックスでは盗塁が許されません。

そのため、新人選手のスカウトも、アスレチックスは他球団と大きく違います。それについて、学び多き表記がありました。

スカウト業界にはポールの興味をそそる特徴がいくつかある。第一に、野球経験があるスカウトはつい、必要以上に自己経験と照らし合わせて考えようとする。自分の体験こそ典型的な体験だと思いがちだが、実際はそうでもない。第二に、スカウトは、選手のごく最近の成績ばかりを重視する傾向がある。最後にやったことが次にやることだとはかぎらない。第三に、目で見た内容、見たと信じ込んでいる内容には、じつは偏見が含まれている。目だけに頼っていると錯覚に陥りやすい。誰かが錯覚に惑わされているとき、現実を見据えられる別の人間にとって金儲けのチャンスだ。野球の試合には、目に見えない要素がたくさんある。

おっしゃる通りです。人は自身の成功体験に強く影響されます。そのため、名選手も名コーチ・名監督にはなれません。日本プロ野球の歴史を見ても、名選手・名監督は1人か2人ほどしかいません。

これは、どんな業界・仕事にも当てはまるでしょう。そして、今でも多くの業界では、長年の勘や経験が幅を利かせています。「うちの業界は古くて、非効率なんだよな…」こう嘆いている人も多いかもしれません。

しかし、見方を変えれば、そういう業界こそ宝の山です。

なぜなら、自分がその業界のアスレチックスになればいいのです。そうすれば、圧倒的に一人勝ちすることができます。周囲から理解されなければ、それに越したことはありません。一人勝ちの時間が長くなるだけです。

メジャーリーグでも、ウォール街の変革から20年の時間が必要でした。日本には、まだまだ同じ変革が起きる業界がたくさん残っています。そこには、一人勝ちのチャンスが眠っているのです。

それでは、最後にアスレチックスが20連勝の記録を打ち立てた2002年シーズン。そのシーズン開始前に、アスレチックスの経営陣が予想した成績を紹介しましょう。いかに、アスレチックスの経営陣が科学的に戦力を分析していたかが、わかります。

2002年のシーズン前、ポール・デポダスタは、今後6ヶ月の見通しをパソコンではじき出した。プレーオフ進出に必要な勝ち数は95。95勝を上げるために必要な得失点差は135(勝ち数と得点数に一定の相関関係があることは、例によってジエイムズらが発見した)。続いて、選手の過去の成績もとづき、得点と失点を予測した。けが人が異常に多く出ないかぎり、得点は800ないし820、失点は650ないし670。ここから計算すると、勝利数は93から97のあいだとなるので、おそらくプレーオフに進出できる。

その結果は、どうだったでしょうか?

実際のシーズン成績は、得点800、失点654で、102勝をあげました。

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