
どうすれば貧困国に貢献できると思いますか?
それは国内の産業を守っている規制を廃止することです。日本の兼業農家を守るための規制によって、途上国では6秒に1人のペースで子どもが餓死しています。
経済の因果関係は、直感とは違います。本書でわかった経済学のエッセンスを紹介します。
日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門
初版:2011年10月14日
出版社:ダイヤモンド
著者:藤沢数希
年金制度は、もう詰んでいる
年金制度が破綻しそうだという話は、よく耳にするでしょう。いま20代は、年金などアテにならないと思っているのではないでしょうか。
では、なぜ年金制度は破綻するのでしょうか?
日本の公的年金は賦課方式といって、働いて税金や社会保険料を納めている現役世代が、引退した老人に年金としてお金を渡すしくみです。要するに、働いている現役世代が、働いていないお年寄りに仕送りをしているのと同じことです。
今後、少子高齢化が進んでいき、支える側の労働者に対して、年金をもらう側のお年寄りの数がどんどん増えていきます。現在では3人弱の現役世代で1人の年金受給者を支えていますが、これが2020年には2人で1人を支えるようになります。よって、年金の原資を払う人の負担が急速に増えていって、年金をもらう人の給付もどんどん減らざるを得ないと予測されます。
年金は、現役世代が老人にお金を分配するという、とてもシンプルな仕組みです。
引用にもあるとおり、2020年には2人に1人が高齢者となり、2050年には1人の若者で1人の高齢者を支える必要があります。そうなると、給料の半分を年金として提供しないと、年金制度は維持できなくなります。
もちろん、そうして年金制度を維持してくのは無理でしょう。そのため、誰がどう考えても、年金制度の破綻は目に見えています。
当たり前ですが、年金というのはマイナスサム・ゲームです。誰かに支給される年金は、誰かが払ったものです。自分が払ったよりも多く受け取れる人もいれば、逆に少ししか受け取れない人もいます。どうしてゼロサムじゃなくてマイナスサムかというと、カジノと同じ理由です。ギャンブルではカジノが寺銭を取りますが、年金は官僚や年金に関わる公益法人、システム開発を請け負う民間企業や資産運用会社がいくらかのお金を合法的に抜き取ります。
ギャンブルは勝つ人も負ける人もいて運次第ですが、日本の年金は最初から負ける人が決まっています。40歳以下の人たちは負け、それも大幅なボロ負けが確定しています。勝ち組は高齢者と年金ビジネスに関わる官僚や金融機関でしょう。
こんな小学生でもわかる簡単なことが、なぜか多くの国民はわかっていないようで、みんな自分が払った以上に年金をもられると期待しているようです。こんなすでに負けがわかっている不合理なギャンブルに大切なお金を張り続けるなんてどうかしてると思いませんか?だから年金は一刻も早く清算させるべきです。
そして、どの年代が年金をいくらプラスでもらえて、どの年代がいくら払い損をするかもわかっています。
一例を載せると、
1940年生れ:プラス3000万
1985年生れ:マイナス2000万
1995年生れ:マイナス2500万
つまり、いまの70代と20代では、普通に生きてるだけで5000万以上の差が生まれるのです。5000万もあれば、家が買えます。これだけ不平等を生む所得の分配を続ける必要があるのでしょうか。すでに破綻している制度ですから、早々に廃止してもらいたいです。
イノベーションで大量リストラは、悪なのか?
先日、みずほ銀行が1万9000人のリストラを発表しました。従業員の1/3にあたる大規模なリストラです。背景にはブロックチェーン技術とAIの導入があるようです。
リストラは大企業にとって、本当に最後の最終手段です。企業イメージも下がりますし、訴訟のリスクもはらんでいます。それでも、1/3もリストラをするというですから、相当に追い込まれているのでしょう。
では、このリストラは社会にとって、どんな影響があるのでしょうか?
社会をとてもシンプルにして、10人の村で考えてみます。そうすると、イノベーションがもたらす本質的な影響が見えてきます。
最初は貧しい自給自足の農村です。10人がみな朝から晩まで田畑を耕して必死に飢えないように食べ物を作っています。ところがある日、村人のひとりが肥料を発明しました。この肥料を使うと安定してたくさんの野菜や果物や穀物をつくれることがわかったのです。イノベーションです。おかげで10人でやっていた野良作業を5人でできるようになりました。そうすると残りの5人はどうなるのかというと、失業してしまうのです。
しかしこの失業した5人は新しい仕事を見つけます。漁業です。おかげでこの村は農産物の他に海産物も手に入れたのです。これが経済成長です。農産物だけだったGDPが農産物と海産物に増加したのです。そのあと、農業でも漁業でもさらにイノベーションが起きて、とうとう農業はふたりで十分で、漁業はひとりで十分まかなえるほど効率がよくなりました。しかし残り7人は失業してしまったのです。
ところがこの7人は村を豊かにするためにさまざまな新しい仕事をはじめます。大工さんになって家を作る人、お医者さんになって村人の健康を守る人、それにこの豊かになった村では歌を歌うという仕事まで生まれました。村人全員で農作業をしていた時代にくらべてはるかに生産性が上昇し、飛躍的な経済成長をとげたのです。
イノベーションによってリストラされた人たちが、別の価値を生むようになると、社会全体は豊かになります。
これはリーマンショックのときにも、同じことが起きました。当時、ウォール街に勤務していた多くの人がリストラされました。その人たちが、シリコンバレーに流れていき、金融とITをかけ合わせてフィンテックという新たな分野を創出したのです。
その結果、伝統的な金融業界で大量リストラが起きるわけですが…
ポイントは、なにかというと、リストラされた人が新たなか価値を生み出せば、社会全体が豊かになるということです。経済のパイ自体が大きくなるからです。
そのため、イノベーションで大量にリストラが発生することは悪ではありません。そして、リストラされた人が政府に保護を求めて、デモを起こし、訴えかけることは無意味です。せっかく経済のパイを大きくするチャンスなのに、その機会を放棄しているのと同じです。
政府も手厚い保護などで応じてはいけません。そんなことをして新たな価値創出を阻んでしまうと、社会全体が豊かになるチャンスを逃してしまいます。
もちろん、新たな価値を生み出すといっても簡単なことではありません。リストラされる人たち全員ができることではないでしょう。でも、新たな価値を生み出す起業家は必ず出てきます。そして、リストラされる人たちは、こうした起業家のもとで、働くことになるでしょう。経済は、こうしてパイを大きくし、豊かになってきたのです。
ところで、世の中に出回るお金の総量というのは、実質GDPが成長して経済規模が大きくなればどんどん増やしていかないといけません。中央銀行はこのような場合は満期の長い長期国債を買ったりして半永久的にマネタリーベースを増やします。つまり経済がどんどん成長していけば、物価を安定させたままどんどんお金の量を増やしていけるのです。
お金はゼロサム・ゲームではありません。成功した起業家や投資家がたくさんお金をもっていてもそれは他の人から搾取したものではないのです。経済のパイを大きくして、世の中をより豊かにしたのだから、その分の見返りをもらって当然です。こういうお金持ちのおかげで多くの市民はより豊かになったのです。
貧困国を救う方法とは?
先進国の中で、自由競争から逃れ、ガチガチに保護されている産業があります。その保護や規制を撤廃することです。
たまに、
利益優先の悪どい先進国や多国籍企業に、貧困国は搾取をされている
こんなイメージを持っている人がいます。そして、ファストファッションは途上国を搾取して成り立っているから、わたしは反対だという人がおり、驚ろかされます。
奴隷制のように人権を無視して強制労働をしているなら、話も分かるような気がします。しかし、法律の範囲の中で、採用して雇用を提供しているなら、搾取とは逆のことをしています。
こういった貧しい国々は世界の先進国に搾取されているから貧しいのだという考え方もあります。以前、NIKEのアジアの工場で未成年労働者がいたことが大問題になったことがありました。そこでもNIKEのような多国籍企業が途上国を搾取しているとのイメージができあがりました。
しかしそういったことは、じつは事実とはまったく反しています。多国籍企業に比較的安い賃金で雇用されることが「搾取」というなら、今、世界で急速に成長し豊かになっている発展途上国はむしろ搾取されているからこそ豊かになっているのです。インドや中国、最近ではベトナムなどは、安い労働力が目当てで多国籍企業がどんどん進出したからこそ先進国の技術や資本が移転して豊かになっていったのです。その点、アフリカや東南アジアの最貧国はこういったグローバルな市場経済に組み込まれず、取り残されているからこそ貧しいままなのです。
つまり、多国籍企業が途上国に進出すればするほど、途上国は発展していくのです。
実際に中国を見てください。Huaweiが9万近いハイエンドスマホを発売しましたが、14万もするiPhoneの性能を抜いてしまいました(とくにカメラ性能)。安かろう悪かろうの中国は終わったのです。
こうしたことは、日本や韓国、アメリカのメーカーが中国に工場を建設していなかったら、決して起きなかったことです。今後は同じようなことが、ファッションなどの産業でも起きてきます。
では、逆に海外進出が進まず、国内で手厚い保護を受けている産業は、なにがあるでしょうか?
代表格は、農業です。
日本の農業は、規制が厳しいことで有名です。農家が自分たちの利益を守るために作った農協が非常に強いからです。そのため、生産性の高い大規模農業もできませんし、コメは生産量を減らすと国から補助金がもらえるという意味不明な制度まであります。
そして、輸入の農作物には信じられいないような高い関税をかけています。たとえば、外国産のコメには800%の税金がかかっています。つまり、コメは本来1/4以下の値段で購入することができるのに、税金でいまの価格になっているのです。国民全員が3足で8000円もする靴下を買っているような状態です。
途上国の中でも特に貧しいのは農家です。途上国の農家の人々の人件費は非常に安いし土地もたくさん余っているので、先進国のすぐれた農業技術を移転して、そこで作った食料を先進国に輸出すれば、途上国と先進国の双方に大きな利益をもたらうことは明白です。ところがそうなると競争できない先進国の農家とそこに群がる様々な利権が、決してそういうことが起こらないように規制でがんじがらめにしています。
そして、こう続きます。
途上国から非常に安価で良質な食料が自由に日本にやってくれば、生活のための必要最低限のコストは大きく下がるので、生活保護などの社会保障に必要な税金も大きく下げることができます。そして貧しかった途上国の農家の人もじょじょに豊かになっていくのです。そうやって豊かになった途上国の農家の人々が今度は日本からいろいろな製品を買うでしょう。農業の自由化は途上国にも先進国にも大きな利益があるのです。
兼業農家の人たちを守るという名目で作った規制により、途上国では6秒に1人のペースで子どもが餓死しています。
一方で、搾取と批判される企業の海外進出によって、途上国は技術を習得し、豊かになっています。
貧困国を救う方法は簡単です。1週間ボランティアに行って学校建設を手伝うことではありません。国内産業を保護している規制を取り払うことです。そうすれば、経済が世界で最適化されて、いまよりももっともっと全人類が豊かになれます。