「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」でわかったアイデアの出し方とは?

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どうすればヒットアイデアを出せるのか?

アイデアの生み出すのは、とても辛い作業です。考えても考えても思いつかないし、やっとの思いで考えたアイデアもヒットせずに終わることは多々あります。今回はUSJをV字回復させたヒットメーカーのアイデアの出し方を紹介します。


USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?

初版:2016年04月23日

出版社:KADOKAWA

著者:森岡毅

なぜ、USJはV字回復したのか?

それは、森岡毅さんの手腕です。

USJは2001年にオープンし、オープン年は1100万人の来場者がありました。ところが、そこから来場者はどんどん減っていき、2009年には700万人となってしまいます。ピークと比べて半減してしまったのです。

そんな瀕死の危機にあったUSJにCMO(Chief Marketing Officer)として就任したのが森岡毅さんです。

森岡毅さんは次々とヒットを連発して、2013年には来場者を1000万人にまで回復させています。その後も、USJは来場者を伸ばし続けており、今では1500万人が来場するテーマパークとなっています。ちなみに、森岡毅さんが就任後に手がけたアイデアの一部が、こちらです。

  • ハロウィーン・ホラーナイト
  • 世界一の光のツリー
  • ユニバーサル・ワンダーランド
  • ハイウッド・ドリーム・ザ・ライド
  • モンスター・ハンター・ザ・リアル
  • バイオハザード・ザ・リアル

どれも、USJの有名なアトラクションですが、1番はハイウッド・ドリーム・ザ・ライド(後ろ向きのジェットコースター)でしょうか。

これらのアイデアは、就任して3年以内に構想し、実践したものです。たった3年でこれだけのアイデアを実行し、ヒットを生み出すとは…。本当にすごいです。

しかも、森岡毅さんはこれらのアイデアの背景に1つのストーリーを描いていました。それが「3段ロケット構想」です。

1段目のロケットは、テーマパーク事業の最大のボリュームゾーンでありながらUSJの長年の弱点だった「家族連れ顧客(ファミリー)」を取り込むこと。
そこから生み出したキャッシュをテコにして打ち上げる2段目のロケットは、遠方からゲストを集客できる「ものすごい何か」を作って関西依存の集客構造から脱却すること。
そして更に大きなキャッシュをテコにしてより高く打ち上げる3段目のロケットは、科学的経営管理法に基づいてパークを効率的に運営するこの会社のノウハウを複数の場所に展開して、会社を大きく飛躍させてゆくこと。

つまり

1段ロケット:家族連れを取り込む
2段ロケット:アジアからも集客する
3段ロケット:テーマパークの世界展開

というストーリーを描き、2段ロケットで準備していたハリー・ポッターへの投資のため、上記のアイデアを1段ロケットとして構想したのです。

ちなみに、ハリー・ポッターには450億円を投じたと書かれていました。USJは年間売上800億円の会社ですから、とんでもない大勝負に出たということになります。そうした大勝負に出ることができたのは、背景に確固たる戦略(ストーリー)があったからなんだと本書を読んで理解しました。

ヒットメーカーのアイデアの出し方とは?

考える

森岡毅さんは、どうやってこれだけのアイデアを連発してきたんでしょうか?

森岡毅さんは理系的な人間で、右脳的・天才的なひらめきでアイデアを生み出すことができないとおっしゃっています。そのため、徹底して理詰めで考えて、アイデアを生み出すそうです。

そうやって理詰めで考えるときに重要なことが2つあります。それが、

  • フレームワーク
  • リアプライ

です。それぞれ、どういうことか解説していきます。

フレームワーク

森岡毅さんは、まずフレームワークを使って、どんなアイデアを出すべきか範囲を絞っていくといいます。

アイデアを生み出すに当たって、最初に最も大切なことは、何を必死に考えれば良いかわかっていることです。どのようなアイデアを考えなくてはいけないかがわかっていなければ、漠然と広すぎる可能性の中から、何の手がかりもなくアイデアを探すことになります、それでは効率が悪すぎるのです。ですから「フレームワーク」という道具を使って、探すべきアイデアの「手がかり(必要条件)」を推理して導き出すのです。

そして、こう続きます。

私はアイデアを考えるときは、まず目的を徹底的に吟味して定め、その次にアイデアが満たすべき「必要条件」を一番時間をかけて考えます。そしてその必要条件を組み合わせ、より条件を絞り込んで、自分が必死に思いつくべきアイデアの輪郭をできるだけ 明確に絞り込んでいきます。具体的なアイデアを考え始めるのはいつも最後の最後なのです。
ちょうど宝を探すときに、その土地を隅から隅まで手当たり次第に掘り起こすのではなくて、まずはじっくりと宝が埋まっている場所を徹底的に推理して、ある程度の当たりをつけてから初めてスコップを動かすのと同じ手順です。

たとえば、来場者を50万人増やしたいと考えたとします。

そのとき、手当たり次第に50万人の来場者UPが見込めるアイデアは考えないということです。現状のUSJの来場者を男女や年齢などでセグメント分けして分析し、ファミリー層が少ない(改善が見込める)という仮説を立てます。これがフレームワークです。

そして、ファミリー層の来場者で50万人UPというアイデアの大枠を決め、必要条件をあげきって、そこから具体的なアイデアを考えていくそうです。

リアプライ

フレームワークでアイデアの大枠を決め、必要条件をあげていきます。そうして、アイデアの範囲を絞り込んだら、次は具体的なアイデアを出していく段階となります。そのときに、とても有効なのがリアプライです。

マーケティングを仕事にする人間は特に、このスキルに力点をおくべきだと私は考えています。私は前職で多くの国籍の人と一緒に仕事をしました。一般論ですが、日本人は何でも自分でゼロから始めようとする、悪いクセがあるように思うのです。これは日本人の職人気質から来ているのではないかと思うのですが、人のアイデアを活用したり、それをベースに新たな価値を増築していくことが、スマートだと信じている人をあまり見たことがありません。
また、そのために世界中に広く情報の網を張って外からアイデアの種をたくさん輸入すべく努力をしている人もあまり見たことがありません。多くの人が自分のプロジェクトに関連する自社の都合だけを自分の視界のみで見ているように思うのです。もっと外に目を向けて積極的にアイデアを盗みに行った方が良いと私は思うのです。

すでにうまくいっているアイデアをリアプライして、新しいアイデアを生み出していくのです。

リアプライするときに注意なのですが、他のアイデアをそのまま拝借してもうまくいきません。なぜなら、状況や文脈が異なるからです。なので、うまくいっているアイデアの要因・本質を理解した上で、自分たちの状況や文脈に翻訳する作業が必要です。これがリアプライです。森羅万象の精神で、世の中にアンテナを張っていないと、いざというというにリアプライはできません。

「プラダを着た悪魔」のモデルとなったUSヴォーグの編集長アナを追った「ファッションが教えてくれるもの」というドキュメンタリーがあります。そのなかでも、伝説的なカメラマンが「移動中は絶対に寝るな」というアドバイスをするシーンがあります。なぜなら、どこに美しい・絵になる風景があるかわからないからです。そして、そうした日々の行動の蓄積が、いざというときに活きるというのです。

リアプライも同じです。近い業界にはとくにアンテナを張って過ごす必要があります。

実例

目的を定め、フレームワークで範囲を狭め、必要条件を設定する。そして、リアプライなどをもちいながらアイデアを出していく。

森岡毅さんの理詰めでアイデアを生み出す過程を解説してきましたが、最後に実例を紹介します。

3段ロケット構想とうい戦略を定め、1段ロケットでファミリー層の集客UPという戦術を決めて、ユニバーサル・ワンダーランドという具体的なアイデアを生み出す過程です。

入社前後の時期に私が最初に行ったのは、明確な目的の設定でした。様々な市場データや経営資料、競合各社の実証データから、USJが現状からどの程度まで集客を伸せるかを考えました。そこから会社が設定すべき成長目標、つまり会社としての目的を設定したのです。年間集客は700万~800万人ではなく、1000万人レベルを集客できるのではないかと弾き出し、向こう3年以内の目的として、「1000万人の集客を安定的に達成すること」と掲げました。
次に戦略です。100万人を達成するための戦略オプションをあれこれ考えました。USJが昔から強い独身女性により多く来てもらう戦略、未開発のシニア層を呼び込むための戦略、USJに来る頻度が低い地域を呼び込む戦略など、様々に大方針を考えたのです。
それらの中から、ターゲットの不必要な狭さに着眼して、最も達成可能性が高いと判断した戦略が「小さな子供連れファミリーを獲得する」ことでした。そうなれば「小さな子供連れファミリーの獲得」を必要条件にアイデアを考えれば良いわけです。
さらに、その大きな1つの必要条件をもう1レベル噛み砕いて、より具体的な4つの必要条件として考えました。
必要条件「小さな子供連れファミリーを獲得できる」とは?
①「小さな子供連れは楽しめない」という消費者のパーク全体に対する認識を強く覆すものでなくてはならない。
②実際に数割増えるであろう集客に十分に大きな収容キャパがなくてはならない。
③設備投資資金の予算内で実現できるアイデアでなければならない。
④既存資産とのプラスの相乗効果で経営効率を高めるアイデアであれば尚良い。
なお、この段階でようやく、これら必要条件を満たすアイデアを具体的に探していくことになります。この4つの条件を足がかりに、当てはまるものをどんどん発想していって、その中から成功確率が最も高いと思えるアイデアを選ぶわけです。

アイデアを生み出す過程が、これだけ正確に言語化されているということからも、本当に理詰めで考えていることがわかります。みなさんも、アイデアを考えるとき、ぜひ参考にしてみてください。

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