
なぜ、Airbnbは急成長を遂げたのか?
それは世界中のミレニアム世代に支持されたからです。人とのつながり・画一的ではない「手づくり」感・洗練されたプラットフォーム・都市型などAirbnbが成功した理由を解説します。
Airbnb story
初版:2017年05月25日
著者:リー・ギャラガー
目次
なぜ、Airbnbは急成長を遂げたのか?
Airbnbは2008年にチェスキーが創業した民泊のプラットフォームを提供する会社です。
そして、いまは未上場企業ですが市場価値は3兆円と言われており、1億4000万回もユーザーに利用されています。世界中でAirbnbに掲載されている部屋数は300万室を超えて、Airbnbに物件が掲載されている国は192カ国にのぼります。逆に言えば、物件が掲載されていない国は4カ国しかありません。北朝鮮、イラン、シリア、キューバだけです。
たった10年で、これだけの企業になったのです。とんでもない会社です。なぜ、Airbnbはこれだけの成長を遂げたのでしょうか?
その理由は、世界中のミレニアム世代に支持されたことにあります。
世界中のミレニアム世代のニーズに応えることができたため、これだけ短期間に世界中で事業を展開することができたのです。
では、どういったところがミレニアム世代に刺さったのでしょうか?ポイントは4つあります。
- 人とのつながり
- 画一的ではない「手づくり」感
- 洗練されたプラットフォーム
- 都市型
これらが、どういうことなのか1つずつ説明していきます。
人とのつながり
Airbnbでは、ホストが自宅の一部屋を貸し出し、ユーザーが予約をして泊まりに来るという民泊のマッチングをしています。
しかし、”人の家に泊まるなんて!?”と拒否反応を示す人も多いと思います。それは、赤の他人のプライベートに踏み込んでいく行為だからです。そして、自分のプライベートを赤の他人と共有しなければいけないからです。この近すぎる距離感が嫌だという人も多いのではないでしょうか。
しかし、そこにこそAirbnbの価値があります。
Airbnbは”世界中を居場所にする”を理念として掲げており、この近すぎる距離感が”人とのつながり”となり、Airbnbの中心的な価値なのです。
「世界中を居場所にする」ことは、一過性の出来事ではない。エアビーアンドビーで旅すると、自分という人間が変わる。エアビーの旅は自己変革の体験だ。エアビーアンドビーはそれを「世界中を居場所にする自己変革の旅」と呼ぶ。旅に出るときは誰しも、少し心細い。エアビーアンドビーの宿に着くとホストに受け入れられていると感じ、その心遣いを感じる。そして自宅にいるような安らぎを感じ、いつもの自分になれる。そうなったとき、人はより自由で、より優しく、より満たされた人間になる。すると彼らの旅も満たされる。
旅行先でAirbnbを使えば、現地で生活をしているホストとのつながりを感じることができます。
誰かの家に泊まるという新しい体験は、もうひとつの大きなニーズに応えていた。それは、人とのつながりだ。エアビーアンドビーで誰かの家に泊まったり、ホストとして誰かを迎えたりすることは、他人と親密になるということだ。たとえホストがそこにいなくても、その人はあなたを迎える準備をし、あなたのために気を遣う。普段は行けないような街の片隅の誰かのプライベートな空間に、ドキドキしながら足を踏み入れるとき、たとえほんのわずかであっても、別の誰かとつながった気持ちになるものだ。もしホストがそこにいれば、その気持ちはますます強くなる(エアビーアンドビーの初期のスローガンのひとつは「人間らしく旅しよう」で、この言葉は今でも使われている)。
信じらない感覚かもしれませんが、この”人とのつながり”はミレニアム世代が強く求めているニーズです。
参考:「WE ARE LONELY BUT NOT ALONE」でわかったコミュニティの作り方とは?
いままでは会社が価値観と人間関係を提供してくれていましたが、今はそうではなくなっています。会社で遅くまで残業をしたり、飲みにいったりする機会も減っています。煩わしいと感じられて会社の人間関係が減ったのですが、その結果、どこかで人とつながれる機会というのが求められているのです。
画一的ではない「手づくり」感
2つ目のポイントは、画一的ではない「手づくり」感です。
民泊なのでホテルと違い、当然同じ部屋は2つとして存在していません。そして、ホテルがないような地域でも宿泊が可能です。画一的ではなく、そこでしか体験できないことが味わえます。
しかし、エアビーアンドビーが開拓したのは、お手ごろ価格と豊富な部屋ぞろえを超えたなにかだった。それは、いつもと違う特別な体験だ。その体験が完璧でないからこそ、画一的なホテルにはない、こじんまりとした「手づくり」感のある旅行がしたいという望みが満たされる。また、お決まりの観光地以外のさまざまな場所を訪れて、その地域をより身近に体験することもできる。エアビーアンドビーが強く打ち出しているのは、まさにその点だ。特にミレニ アル世代は、こうした要素に強く惹かれた。画一的なブランドに不満を持ち、冒険心が旺盛で、に慣れているミレニアル世代は、オンラインでつながった誰かの家に泊まることにそれほど違和感はなかった。ミレニアル世代以外も多くの人にとってもまた、そうした特色は魅力だった。
これは、ある程度豊かさを享受していないと発生しないニーズかもしれません。
“どこのホテルに泊まっても同じなんだよな”という不満は、一定の品質以上のホテルに泊まり慣れた人しか感じることのないものです。ホテルチェーンは、世界中どこの都市に行っても清潔なベットルーム、完備されたシャワー、美味しい朝食、訓練されたコンシェルジュを揃えていることを売りにしています。実際にとても価値があることです。
しかし、ミレニアム世代は生まれたときから、そうしたホテルのサービスを受けており、慣れてしまっています。
日本国内で考えても、どこのホテルチェーンに宿泊したとしても、大きな差は感じないでしょう。毎回同じくらいの金額を使って同じようなサービスを受けるのであれば、今回は特別な旅行体験がしたいという旅行もあるでしょう。そうしたときにAirbnbが使われるのです。
洗練されたプラットフォーム
洗練されたプラットフォームとは、サイトの使い心地のことです。
民泊のマッチングサイトは、実はAirbnb以前も存在していました。しかし、Airbnbはそうした以前のサイトと比べて、とても洗練されたサイトを提供しています。
では、なにが新しいのだろう?エアビーアンドビーの功績は、障壁を取り払い、簡単で使いやすく親しみの持てるプラットフォームをつくり、簡単で使もが参加できるようにしたことだ。ほかのウェブサイトと違って、エアビーアンドビーは、ホストの個性が出るような部屋の見せ方をしている。プロの写真家を送り込み、部屋がおしゃれで温かく見えるように撮る。検索と連絡と支払いがすべてシームレスにつながり、滞りなく進むようになっている(エアビーアンドビーは借家の仲介業者で、テクノロジー企業ではないという人は多いが、バックエンドのインフラはシリコンバレーで最も洗練されている)。信頼を強化するためのさまざまなツールも開発してきた。たとえば、滞在と支払いが終わったあとに完結する相互レビューのシステムや、身元確認制度だ。
本書でも書かれていますが、Airbnbはテクノロジー企業という印象が薄いかもしれません。なぜなら、サービスが民泊だからです。
しかし、よく考えると民泊のマッチングを安全に成り立たせるためには、非常に高い技術力が必要であることがわかります。ユーザーが求める宿を地域・値段・内装・宿泊タイプ・レビューなどを考慮した上で表示させるだけでも大変です。その上で、安全な支払いやキャンセルの手続きができるようになっていたり、ホストとユーザー間のSNS的な機能も備わっています。
そう考えると、Airbnbの運用面は非常に大変です。これを支える技術力もAirbnbの強みの1つです。Airbnbはまぎれもないテクノロジー企業なのです。
都市型
最後のポイントは都市型である、ということです。つまり、Airbnbで掲載されている物件の多くは、都市部の物件だということです。
ほとんど話題にならないが、エアビーアンドビーの一番の特徴は、都市型という点だ。それまで、ほとんどのホームレンタル会社は、別荘か、昔ながらの休暇地やリゾート地の物件しか扱っていなかった。エアビーアンドビーでもツリーハウスやボートハウスが話題になるが、掲載物件のほとんどはワンルームか、寝室がひとつからふたつのだ。多くの旅行者はそこに惹かれるし、ホテルにとってはそれが脅威になる。エアビーアンドビーは普通の人を引き寄せた。ワンルームアパートを借りている人でも、その空間でお金を稼ぐことができる。しかも部屋を貸す人にも借りる人にも、それが人生を変えるような体験になる。都市型で、簡単で、「ミレニアル向け」のサービス。オンラインのマーケットプレイス事業。規模が規模を呼ぶモデル。そのため、ある程度の規模に達したら、その支配力はなかなか崩れない。
日本でもこの傾向は強くて、物件掲載数が多いのはダントツで東京です。軽井沢などに別荘を持っている特別な人がホストになり、物件を掲載しているわけではないのです。
東京で普通に生活をし、会社勤めをしているような人が、空いている部屋を貸し出しているのです。(日本では規制が強くなったので、民泊の資格がないと貸出せなくなってしまいましたが…)
Airbnbは、どんな苦労を乗り越えてきたのか?
Airbnbが、どんなニーズに応え、急成長してきたのかを解説してきました。次はAirbnbが乗り越えてきた苦労をいくつか紹介していきます。
どんな創業ストーリーにも壮絶な苦労があります。Airbnbも、いまでは世界的な大企業ですが、創業期は生きるか死ぬか死線をさまようような経験をたくさんしてきています。
シリアルで借金を返済
創業して10年で3兆円企業となったAirbnbですが、サービスをスタートした当初はまったくうまくいっていませんでした。1年ほど無収入の期間が続きます。
Airbnbの創業者はチェスキーとゲビア、ブレチャージクの3人で、そのうち2人がクレジットカードで200万ずつ借金をして何とか食いつないでいました。クレジットカードで借金をして食いつないでる創業者なんて…、なかなかいないでしょう。
そして、借金返済の苦肉の策として”シリアルの販売”を思いつきます。シリアルとは、朝食で食べるあのシリアルです。もはやAirbnbとは、まったく関係のないことでお金を生み出そうとしたのです。
サンフランシスコのスーパーで一番安いシリアルを見つけ、カートを何台も満杯にした。定価1ドルのシリアルを1000個買ってゲビアの赤いジープに積み込み、部屋に戻った。キッチンには組み立て前の箱が1000個と高温糊付け機がひとつ。その箱を一つひとつ組み立てて、糊で封印する。「バカでかい折り紙を折ってるみたいだった」。チェスキーは手をやけどした。マーク・ザッカーバーグは糊付け作業なんてやってないし、手を火傷しながらシリアルの箱を組み立たりしてないよな、と心の中でつぶやいた。俺たち、ダメじゃね?
こんな葛藤をしながらシリアルを作成したところ、1000個のシリアルが順調に売り切れになりました。そして、400万円の利益を上げることができ、2人とも借金を無事に完済することができました。
ちなみに、このときAirbnbの本業では週に10万円の売上(利益ではなく)しか上がっていませんでした。
もし、自分がサービスを立ち上げていて、副業で販売したシリアルが一瞬で400万の利益を出しているのに、本業が月40万の売上だったと考えたら、かなり絶望します。あのAirbnbも、こんな状態を乗り越えてきているのです。
毎週NYに出向いてユーザーと会う
シリアルを販売したり、借金をしたりしながら金欠を乗り越えていたAirbnbですが、Yコンビネーターに合格して転機が訪れます。
Yコンビネーターとは、シリコンバレーで有名な起業塾のようなものです。合格率は非常に低いですが、合格すれば50万円の出資と経験豊富な起業家(グレアムなど)からアドバイスをもらうことができます。そして、事業が軌道にのってくれば、多数のベンチャーキャピタルに紹介もしてもらえます。
AirbnbはYコンビネーターの試験になんとか合格し、50万の出資を受け、グレアムにアドバイスを求めにいきます。
まず、グレアムはチェスキーたちに利用者数を聞いた。3人は、それほど多くないんです、たった100人くらいですと答えた。心配するな、とグレアムは言った。
「なんとなく好きになってくれる」100万人より、「熱烈に愛してくれる」100人のファンのほうがはるかにいい。それは、規模と成長がなによりも優先されるシリコンバレーの常識に真っ向から反する教えだが、3人にはその言葉が腹に落ちたし、希望になった。
次に聞いたのが利用者のことだ。ユーザーはどこにいるんだ?場所は?ほとんどがニューヨーク市です。グレアムは一瞬黙って、ニューヨーク市にいる、と繰り返した。「そうか、君たちはマウンテンビューにいて、ユーザーはニューヨークにいるんだな?」
3人は顔を見合わせ、またグレアムを見た。「はあ」「こんなところでなにぐずぐずしてるんだ?」グレアムは言った。「ニューヨークに行け!ユーザーのところに」
そこで、ユーザーに会いにいくことにした。それからの3カ月間、ゲビアとチェスキーは毎週末ニューヨークに飛んだ。ブレチャージクがコーディングに集中するあいだ、チェスキーたちはユーザーを一人ひとり訪問した。雪をかき分け、すべてのユーザーに会うか、そこに泊まるかした。
出資を受けたと言っても、たったの50万円です。創業者が3人おり、生活費がかかることを考えれば、余裕のある資金ではありません。
それでもグレアムからアドバイスを受け、ゲビアとチェスキーの2人は毎週サンフランシスコからニューヨークに通って、ユーザーから話を聞いていました。ちなみに、サンフランシスコとニューヨークは往復で5万以上はします。2人で行けば、10万以上かかります。
3ヶ月間毎週2人で往復したということは、出資された50万とAirbnbから上がってくる利益のほとんどをユーザーのヒアリングのために使ったということです。非常に勇気の要る判断だったと思います。
しかし、その結果、Airbnbのサービスはユーザーのニーズをとらえたものに劇的に変化していき、ユーザー数もどんどん増えていきます。
法律との戦い
最後の苦労は創業期のものではありません。Airbnbが大きくなって、今まさに世界中で起きている戦いです。
日本でも先日、法律が改定されて非常に厳しい規制が策定されました。個人的には、こうした規制は経済の発展を遅らせるだけで、日本経済に大きなマイナスだと思います。
ただ、こうした規制は日本だけでなく、世界中の既得権益の強い地域で定められています。そして、Airbnbは世界中で、法律との戦いを繰り広げているのです。
しかもそれはニューヨーク市だけでなく、世界中の多くの都市での闘いになった。エアビーアンドビーの活動そのもの、つまり短期に家を貸すという行為は多くの都市で違法だった。この規制は自治体が決めるもので、国ごとや都市ごとで違うばかりか街によっても違う。さまざまなルールがパッチワークのようにつながり、複雑な様相になっている。エアビーアンドビーのホストは、自治体ごとの短期の宿泊(民泊)規制、税法、建物基準、区画条例、その他のさまざまな法律に引っかかる可能性がある。エアビーアンドビーは多くの市場で規制当局と協力し、こうした規制に変更が加えられ、合法的な運用が許されている。これまでに、ロンドン、パリ、アムステルダム、シカゴ、ポートランド、デンバー、フィラデルフィア、サンノゼ、上海、その他多くの都市と合意を結んできた。これらの都市では 規制が緩和されたり、新たなルールがつくられたり、税金が徴収されたりしている。
立ち上げ当初とは異なる種類の壁がAirbnbには立ちはだかっています。しかし、この法律との戦いに決着をつけていくことで、世界を変えていくことができます。Airbnbは本当にすごい会社です。
以上、「Airbnb story」でわかったAirbnbが成功した理由でした。