
現代人は、なぜ幸せではないのか?
それは人類史上はじめて孤独を感じているからです。安定した愛着を育むことで人格や人間関係の土台を築くことができ、人生の幸福度を高めることができます。
目次
愛着障害の克服
初版:2016年11月20日
著者:岡田尊司
愛着障害とは、なにか?
- うつ
- 対人関係の問題
- 過食
- 育児の悩み
- 恋愛問題
- DVや夫婦関係の悩み
- 心の傷
- 子どもの不登校
- 非行
など、本当に様々な問題の根本原因と言われているのが愛着障害です。もちろん、愛着障害さえ克服すれば、すべてよくなるというわけではありません。
しかし、不安定な愛着(愛着障害)が根本的な原因で、様々な症状に苦しんでいる人は多くいます。前作の「愛着障害」では、カップルのうちどちらか1人が不安定な愛着を抱えている可能性は50%を超えると述べておられました。
ご自分が、不安定型愛着を抱えているかもしれないし、恋人や配偶者や子どもや同僚がそうであるかもしれない。カップルのどちらかが不安定型愛着を抱える確率は、何と五〇パーセントを超えるのだ!さらに、三人の人がいて、そのうち一人でも不安定型愛着を抱えている可能性は、七割にも達する!不安定型愛着がどういうものかを知らずに世渡りすることは、片目を眼帯で覆って車を運転するようなおのだと言えるだろう。
それほど「愛着」というのは現代社会を生きる上でのキーワードなのです。そして、愛着障害を克服することで、かなり幸せ度を高めることができます。
愛着とは?
愛着とは、一体なんなんでしょうか?本書では、このように書かれています。
愛着とは、母親との関係によって、その基礎が作られる絆だが、それは他の人との関係に適用され、また修正されていく。愛着は対人関係の土台となるだけでなく、安心感の土台となって、その人を守っている。
はい。愛着とは、母親との関係によって基礎がつくられる絆のことです。この絆は他の人間関係にも適用されるため、多くの問題を引き起こすことになるのです。逆に安定した愛着を持っている人は、多くの人と安定した人間関係を築くことができ、人生の幸福度を高めることも可能です。
ここで、父親は関係ないのか?と疑問に思われる方もいるでしょう。本書の中で引用された実験結果では、父親ではなく、母親の愛着が子どもの愛着に影響を与えるようでした。これは子育てに関わる時間が、父親よりも母親のほうが長かったという時代背景もるのかもしれません。父親も母親と同じ程度に子育てに関わるようになれば、愛着の定義も変わる可能性はあります。
そして、この愛着をもう少し科学的に見ていくと、本書ではこのように書かれています。
愛着というメカニズムの正体は、オキシトシンというホルモンによって支えられた仕組みである。オキシトシンは、脳の中では神経伝達物質のように働いている。安定した愛着は安心感を高め、人とのふれあいに喜びを生み出すため、育児や夫婦関係のような親密なかかわりを維持するとともに、幸福と社会性の源ともなっている。愛着が安定している人は、他の点で不利なことがあっても、それを撥ねのけて、幸福や安定した生活を手に入れすい。しかし、不幸にして不安定な愛着しか育めなかった人は安心感においても、対人関係や社会適応においても、生きづらさを抱えやすい。あなた自身が生きづらさを抱えている場合はもちろん、あなたが周囲の人との関係で苦しさや悩みを感じているという場合、そこには不安定な愛着の問題が、しばしばひそんでいる。愛着は、後天的に身につけたものであるにもかかわらず、まるで生まれもった遺伝子のように、その人の行動や情緒的な反応、ストレスへの耐性など、人格の重要な部分を左右し、結果的に人生さえも左右する。
愛着障害の弊害とは?
すでに述べたとおり、愛着障害は実にさまざまな問題を引き起こします。本書では精神疾患と診断される病気も、大半は愛着障害なのではないか?と書かれています。
そして、日常的な悩みも愛着障害が深く関わっていると著者は述べています。
人が抱える悩みはさまざまである。うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症、過食、 気分の波、不注意、育児の悩み、恋愛問題、不倫、離婚、非婚、セックスレス、DVや夫婦関係の悩み、心の傷、子どもの不登校、ひきこもり、発達の課題、非行..。
ところが、これらすべてに共通する原因となり得る問題として、その関連が指摘されてい るものがある。それが「不安定な愛着」である。
こうした問題を引き起こす理由は、愛着が対人関係や人格の土台となっているからです。そして、愛着が不安定のままで過ごしていると、人生に生きる意味を見出せなくなったり、幸せを感じられなくなったりします。
なぜ、愛着障害が生まれるのか?
愛着障害が生まれる原因は「安全基地」の欠如です。
安全基地とは、子どもにとっての心の拠り所です。これは、1980年代になって心理学の世界で提唱された概念です。物理的な安全もそうですが、それ以上に信頼感や肯定感など精神的な安全が重要です。子どもは帰る場所があると感じることができるからこそ、冒険に出かけ、外の世界を探索することができるようになります。
そして、この安全基地が欠落している場合、安定した愛着を育むことができないそうです。これが、愛着障害が生まれる原因です。
その上、現代医療のパラダイムが、この愛着障害をさらにややこしくしています。
どういうことかと言うと、現代医療は症状を見て病気を特定します。そして、症状に対する治療を施します。そのため、愛着障害の根本的な解決ができないといいます。
1つの例を考えてみましょう。1人の子どもが寂しくて泣いています。両親とはぐれてしまったのかもしれません。この子どもに涙が止まる薬を処方すれば、どうなるでしょうか?もちろん、涙は止まり、泣き止みます。しかし、それで問題は解決しているのでしょうか?もちろん、何も解決していません。
愛着障害への対処も同様な課題を抱えています。
だが愛着モデルでは、患者は患者ではない。本当に病んでいて、症状を引き起こす原因になっている者が、他に存在するのである。医療少年院の少女の例に見られたように、症状を呈している子どもをいくら診断し、治療しようとしたところで、改善は難しい。なぜかといえば、症状の本当の原因が、子ども本人にあるというより、子どもを育ててきた環境や、周囲の大人との関係の方にあるからである。
患者とされて連れてこられた子どもは、二次的に病気にさせられているのである。その子 どもから病気が始まっているというよりも、周囲との関係の中で、症状を呈するようになっ ている。本当の原因は、子どもを守るどころかむしろ傷つけてきた、周囲の環境や大人との 関係にある。
さらに、こう続きます。
こうした問題は、親子の間において最も顕著に認められるが、夫婦やパートナー間でも見られるし、教師と生徒、上司と部下という関係においても見られる。こんな場合には、問題があるのは明らかに夫や上司なのに、症状化しているのは妻や部下、というケースは山ほどあるだろう。だとすれば本人をいくら治そうとしても限界がある。妻や部下に見られている症状は、本当の問題の「影法師」に過ぎないからだ。影法師をいくらつかまえ治療しようとしても、無駄である。
愛着障害は安全基地の欠落によって生まれます。そして、安全基地が欠落している原因は、愛着障害を抱える本人ではなく、別の人にあります。
しかし、愛着障害で症状が出ている人を一生懸命に治療してしまうため、根本的な解決ができずに症状が悪化していってしまうそうです。
愛着障害を乗り越え(?)、思うこと
前作の「愛着障害」に愛着には4つのパターンがあると書かれていました。安定型、回避型、不安型、恐れ・回避型の4つです。恐れ・回避型は回避型と不安型の混合なので、大まかには3つです。
安定型は、安定した愛着で、なんの問題もない愛着のパターンです。
回避型は、距離をおいた人間関係を好み、親しい関係や情緒的な共有を心地よいと感じないタイプです。そのため、親密さを回避しようとし、心理的にも物理的にも、距離をおこうとします。
不安型は、終始周囲に気をつかっており、相手の顔色を見ながら機嫌を伺っています。そして、そのとき少しでも相手の反応が悪いと、嫌われているのではないかと不安でたまらなくなってしまいます。
そして、「愛着障害」を読んだとき、「回避型」があまりにも自分に当てはまっており、自分は愛着障害だったのではないか?と疑いました。
思い過ごしかもしれないですし、うつや精神疾患などの診断も受けたことがないので、深刻に考えすぎなのかもしれません。しかし、愛着障害を知ってから、人間関係が劇的に楽になり、徐々に回避型の特徴に当てはまらなくなってきました。
その経験からいうと、愛着は安定していたほうが絶対にいいです!人生の幸福度が違います。
では、どうすれば愛着障害を克服できるのか?という話ですが、詳細は専門の医療機関への相談をオススメします。本書にもあったことを簡単に紹介すると、①臨時の安全基地を得る、②親子関係を良好にする、の2つが大切です。
わたしの場合、恋人や友人に恵まれ、臨時の安全基地を得ることができました。その結果、不安定だった愛着が改善されたと感じています。
安定した愛着とは?
結婚やビジネスパートナーなど、人生では深く関わる相手が必ず存在します。そうしたときに、相手の愛着が安定しているか否かは、とても大切なことです。安定しない人と付き合ったり、仕事を進めたりしていくのは多大なストレスになります。自身の幸福度も、かなり下がり、大変な思いをするでしょう。
ただ、残念ながら、明らかに愛着が不安定な人はすぐに見抜けますが、そうではない人は判断しにくいのが実情です。普通の人だと思っていたけど、1年2年と付き合ってみたら、変な人だったと判明する場合もあるでしょう。
そこで、本書に「安定した愛着」を持った人の特徴が書かれていましたので、紹介します。
- 接していて、怖さや危険な感じがなく、安心できる。
- 穏やかで、気分や態度がいつも一定している。
- 目線が対等で、見下したような態度やおもねりすぎる態度をとらない。
- 優しく親切だが、必要なときには、言いづらいことも言う。
- 相手の意思や気持ちを尊重し、決めつけや押し付けがない。
ぜひ、人を見るときのポイントにしてみてください。
さらに、上記の特徴以外にも愛着が安定した人は、共通して2つの能力が高いと言います。それが、この2つです。
- 振り返る力
- 共感能力
振り返る力とは、メタ認知という意味です。つまり、愛着が安定した人は自分を客観視する力が高いそうです。
安定型の人と不安定型の人の語りや思考の違いは、安定型の人では、「メタ認知」という心の働きがよく発達しているということである。
メタ認知とは、ただ、物事を考えるのではなく、考えている自分を、第三者的に考えることである。自分のことでありながら、自分の視点にとらわれず、一歩下がって俯瞰するように自分を見る。つまり自分を客観的に振り返る力が備わっている。
それによって、たとえ自分にとってつらい体験をしても、そのつらさにだけとらわれるのではなく、視点を変えて事態を見ることができる。こうした柔軟な視点の転換が、安定型の人の思考の特徴なのである。
そして、振り返る力と関連していますが、愛着が安定していると共感能力も高くなると言います。
メンタライジング(メンタリゼーションともいう)とは、「心」というものを想定することで、相手の行動を理解する能力のことである。この能力を高めることによって、人は自分を振り返るだけでなく、相手の気持ちや全体の状況を考え、より高い視点を手に入れることができる。つまり、振り返る能力には、「共感能力」や「洞察能力」も含まれる。
たしかに、高圧的・威圧的な人なくても、”なぜ、あんな言動をするのだろう?”と疑問に思う人っていますよね??周りが気を遣って腫れ物に触るような対応をしているのに本人だけが気づいていないという人です。そういう人は愛着が安定しておらず、振り返る力・共感能力が低いのです。
こうした人と深く関わるには、相当な覚悟が必要です。本書にも書かれていますが、自身が臨時の安全基地になったり、その人の親子関係が改善しない限りは、劇的な変化は生まれません。
“あなたの言動に周りが迷惑をしている”という趣旨の指摘をしても、完全に逆効果です。被害者意識を強めて事態が悪化するだけです。なので、相当な覚悟をもって接していくか、深くは関わらないようにするか、どちらかをオススメします。
愛着とは生きる意味
愛着が安定すると、人生の幸福度が高まるということを言いました。その理由は、愛着が人格や人間関係の基礎となっているため、愛着が安定すると、様々な問題が解決するからという側面もあります。
しかし、人生の幸福度が高まるのには、もっと大切な理由があります。それは、愛着が生きる意味に直結しているからです。
安全基地をもつことは、「生きる意味」を得ること。生理学的にいえば、愛着の安定化は、オキシトシン・システムを活性化し、抗不安作用や抗ストレス作用を高め、社会的機能や認知機能、活力や免疫力さえ増強することで、状態を改善するのを助ける。
だが、それ以上に、決定的な何かが作用しているようにさえ思える。それはおそらく、「生きる意味」にかかわる部分ではないか。愛着し安全基地となる存在をもつことは、その人に生きる意味を与えるのだと思う。
「生きる意味」とまで言ってしまうと大げさに聞こえるかもしれませんが、わたし自身も実感する部分です。愛着の問題は、それほどに大きなものなのです。
人類史上、人間が「孤独」を感じるようになったのは、本当に最近のことです。その結果、生まれた愛着障害は人間の根幹に関わる問題です。
自分でも原因がわからず、生きづらさを感じている人も多いと思います。気になる方は、ぜひ本書を読んでみてください。