
3つのキリスト教とヨーロッパ情勢の関係、わかりますか?
ヨーロッパ情勢を理解するには、宗教への理解が欠かせません。読書会でわかったユダヤ教・3つのキリスト教、ヨーロッパ情勢を解説していきます。
目次
開催報告:20代読書会in東京
日時:10月27日(土)09:30-12:00
参加者:13名(男性:7名、女性:6名 初参加:3名、リピーター:10名)
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キリスト教は、なぜ世界宗教になったのか?
キリスト教は世界でもっとも多くの信徒を抱える世界宗教の1つです。
そして、キリスト教がどのように生まれ、なぜ世界宗教になったのかを知るには、ユダヤ教との違いを理解する必要があります。なぜなら、キリスト教はユダヤ教から生まれた一つの宗派だからです。
先に結論を言うと、キリスト教はユダヤ教と異なり、律法が厳格ではありませんでした。そのため、厳格に律法を守っていなかった貧困層や異民族にも支持をされました。その結果、キリスト教はユダヤ教を超えて、世界に拡大していったのです。
それでは、詳しくユダヤ教・キリスト教(とイスラム教)を比較していきましょう。
この図を解説する前に、日本人の多くが誤解していることを1つ解説しておきます。
ユダヤ教・キリスト教・イスラム教は、それぞれ別の神を信仰している、という誤解です。
みなさん、知ってましたか?ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も、神は共通の存在です。
ユダヤ語の神「ヤハヴェ」、英語の神「ゴッド」、イスラム語の神「アッラー」は別の存在を指しているわけではありません。ただ、言語が異なっているだけなのです。そして、そのことはユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒の間では、共通認識です。
では、なぜこの3つの宗教で争いが絶えないのでしょうか?
それは神の言葉を誤って解釈していると、お互いに考えているからです。ちなみに、この神の言葉を預かった者を預言者と言います。ユダヤ教はモーセ、キリスト教はイエス、イスラム教はムハンマドです。
神の言葉を預かった、この3人の言動を元に旧約聖書・新約聖書・コーランというそれぞれの宗教の聖典ができあがっています。
そして、ユダヤ教の聖典「旧約聖書」に「イサクの犠牲」という話が出てきます。ユダヤ人の先祖とされるアブラハムという年老いた羊飼いが主人公です。
アブラハム夫婦は、それまでなかなか男の子に恵まれませんでした。「もう男の子はあきらめなければならない」と思っていたところ、唯一の神ヤハウェがお告げをした。
「アブラハム、おまえはきっと男の子を授かる」
アブラハムは半信半疑でしたが、本当に男の子が生まれました。
イサクと名づけたその男の子を、アブラハムは溺愛しました。そして神に感謝の気持ちを捧げるために、アブラハムは羊を焼いて、生贄としました。
数年後、神がまたアブラハムにお告げを下しました。「アブラハム、もう半はいい。イサクを捧げなさい」 大事な息子を生贄にしろというのです。
するとアブラハムはイサクの手を引いて、羊を生贄にする台の上に載せ、イサクの頭の上から剣を振り下ろそうとしました。
ところがその瞬間、天使があらわれて、こう言いました。
「アブラハム、わかった。もうよい。おまえの忠誠心は確かめられた」
と、こんな話です。つまり、ユダヤ教は「親子の縁よりも神様への忠誠心が大事」という宗教なのです。
こうした話からも分かる通り、ユダヤ教には非常に厳格な律法が存在します。他にも、土曜日は安息日と定められており、土曜日に働いた者は死罪になります。神への反逆と捉えられるからです。
気になる方は、「ユダヤ知的創造のルーツ」という本を読むといいと思います。今も続いているユダヤ教の教えに触れることができます。
一方で、キリスト教には、そのような厳しい律法はありません。
ユダヤ教を信じる大工の息子として生まれたイエスは、砂漠の中で神からの言葉を預かり、説教を始めます。そして「律法に意味はない」と、衝撃的な教えを言いました。
律法よりも信仰心が大事であるという教えを始めたのです。
ユダヤ教の貧困層は律法どおりの生活を送ることができず、安息日にもこっそり働いていました。また、ユダヤ教が広まっていたローマ帝国は多民族国家でもありました。そのため、貧困層や異民族はキリスト教を支持したのです。
その結果、ローマ帝国崩壊後、西ローマ帝国(フランク公国)ではキリスト教が国教となりました。このように信仰のしやすさが、キリスト教が世界宗教となった要因です。
3つのキリスト教とヨーロッパ情勢とは?
現在、キリスト教には3つの大きな宗派があります。この3つのキリスト教を理解すると、ヨーロッパ情勢も深く分かるようになります。
3つのキリスト教とは、
- 正教会
- カトリック
- プロテスタント
の3つです。
それぞれ、どういう特徴があるのか、解説していきます。
正教会
日本人にもっとの馴染みがないのが、この「正教会」です。正教会の特徴は、
- 政教一致
- 原罪の意識が薄い
この2つです。
そして、正教会の起源は、ローマ帝国にまで遡ります。ローマ帝国は崩壊後、東西に分裂しました。その東ローマ帝国が採用したキリスト教が正教会だったのです。
「ニュースの”なぜ?”は歴史に学べ」には、このように書かれています。
ローマ帝国が東西に割れると同時に、キリスト教も東西に分裂しました。
東ローマ帝国は、その都であったコンスタンティノープルを中心とする「東方正教会」を国教としました。
東方正教会の特徴は、政教一致。東ローマ皇帝がキリストに代わって国を治める。皇帝が、正教会の人事権を握ることとなります。
政治権力と宗教が一体化しているということは、皇帝に対する反抗は、神への反逆になるということを意味します。だから、一切逆らえない。したがって、東ローマ帝国は独裁政治を維持できたのです。
実は、この政教一致体制をそのまま受け継いだのが、ロシア帝国です。ロシア皇帝は、自動的にロシア正教会を支配する。ロシアのキリスト教徒は、政教両権を握る皇帝に反抗することができません。ですので、自動的にロシアの政治は独裁になる。つまり、ロシアの伝統からは民主主義は生まれにくいのです。
東ローマ帝国が正教会を採用したと言いましたが、東ローマ帝国は現在のギリシアです。なので、正教会が広がったのはギリシアとロシアの2カ国です。
この2カ国では政教一致のため、政治権力と宗教が一体化し、独裁政治が長期で維持されました。ロシアが、以前はソ連として社会主義を採用できたのは、この正教会が背景にあったと言えるでしょう。別の理由ですが、同じように独裁政権の中国は、今も社会主義国家です。
そして、同書にはこのようにも書かれています。
ロシアは、国土も広く、資源にも恵まれている。それなのに経済が弱く、世界を牽引するような大企業が生まれなかったのは、なぜでしょうか。
これもキリスト教が大いに関係しています。
カトリックやプロテスタントなど、西ヨーロッパのキリスト教は、罪の意識が強い。「原罪」といって、「人間は生まれながらに罪を負っている。だから、その罪を清めないと神様に救ってもらえない」という教えです。
どうやってその原罪を清めるかというと、カトリックは教会に一生懸命寄付をすること、プロテスタントは勤勉に働くことが奨励されたのです。
ところがギリシアからロシアに広まった正教会(東方教会)は、もともと原罪の意識が希薄なのです。そういう意味で、「何かを一生懸命やらなければ」という切迫感 が乏しい。だから、カトリックとは違う理由で、勤労意欲も希薄なのです。
カトリックやプロテスタントと異なり、正教会には原罪の意識が薄いです。そのため、熱心に働く意欲も薄く、経済的にも発展していません。ギリシアが経済破綻した理由の一つは、この正教会にあると言えます。
カトリック
カトリックの特徴は、
- 政教分離
- 蓄財は罪
という2つです。
ローマ帝国崩壊後、東ローマ帝国は正教会を採用しましたが、西ローマ帝国はカトリックを採用しました。
その後、西ローマ帝国はすぐにゲルマン民族に攻め込まれ、フランク公国となります。しかし、このフランク公国を率いていたカールが、ローマ教皇から統治権を認めてもらいます。
その結果、政治と宗教が分離したのです。
このように政治権力と宗教的権威が分かれていることを、政教分離といいます。この政教分離こそが、西ヨーロッパ文明の特徴なのです。
政治と宗教が分かれているということは、王権は絶対的なものではない、ということを意味します。もし国王が悪い政治をすれば、「神のご意思とローマ教皇の命令に反する」という名目で、国王を権力の座からひきずり降ろすことができるのです。実際、教皇は反抗する王たちを「破門」し、屈服させたことが何度もあります。だから、政教分離は独裁防止にもなるのです。
ちなみに、ローマ教皇とはヴァチカンにあるサン・ピエトロ大聖堂のお坊さんのことです。このサンピエトロ大聖堂のお坊さんが偉いのは、この地にパウロが眠っているからです。
パウロはイエスの12使徒の1人です。パウロは岩を意味する言葉だったため、「パウロの上に墓を建てよう」とイエスは言っていました。そのため、パウロが眠るヴァチカンにある教会こそ、パウロの後継者でイエスの代理人ということになっているのです。その結果、ローマ教皇は今でもカトリックの総本山として、大きな力を持っています。
また、カトリックには「蓄財は罪」という教えがあります。そのため、正教会とは異なる理由ですが、カトリックも勤労意欲が低いです。
財政赤字の問題を抱えているのは、ギリシアだけではありません。
ギリシアに加えて、ポルトガル、イタリア、アイルランド、スペインも巨額の財政赤字を抱えていることが明らかになっています。これら5カ国の頭文字をとってPIlGs(ピッグズ)と呼びます。
「イタリアは昔、ローマ帝国があんなにすごかったのに、今はなんでダメなの?」とよく質問されますが、原因は宗教にあります。イタリアやスペイン、ポルトガルといった南ヨーロッパの国々が財政赤字に陥った原因は、彼らが信じるキリスト教のカトリック教会の教えにあるのです。
中世のカトリック教会は、「蓄財は罪」と教えました。だから、お金が貯まったら教会に寄付することが奨励されていました。教会が販売する贖宥状(免罪符)という お札を購入すれば、罪をあがない、神の赦しを得ることができるというわけです。
「金儲けは罪」「教会に寄進をすれば救われる」という教えでは、頑張って働いて、お金を稼ごうというモチベーションが起こりません。蓄財より消費に励み、教会にどんどん寄進するような国民性が育まれていったのです。
プロテスタント
プロテスタントの特徴は
- 政教分離
- 天職(勤勉は善)
の2つです。
プロテスタントはドイツのルターが引き起こした宗教革命の結果、カトリックから生まれた宗派です。
すでに述べたとおり、カトリックは「蓄財は罪」と教えており、貯まったお金は教会に寄付するよう奨励されていました。その結果、富は教会に集まり、教会がどんどん堕落していきました。
こうした中で、ルターが「聖書には寄付なんて書かれてないぞ!」「免罪符の販売なんて書かれてないぞ!」と指摘しました。さらに、一般市民が読めるように聖書を現代語訳をして、印刷したのです。
こうしたルターの指摘に共感し、現代語訳された聖書を読んだ人たちが、新しい宗派を掲げるようになりました。これがプロテスタントです。
カトリック教会は「勤労と蓄財は罪」だと説明しましたが、こうした教えを公然と否定したのが、ドイツのルターとスイスのカルヴァンです。いわゆる宗教改革ですね。彼らの教えを信じる新しいキリスト教徒を総称してプロテスタント(新教徒)といいます。
プロテスタントは、寄付金集めに熱心なカトリック教会を否定し、勤労や蓄財を罪と見なさない。一生懸命働くことが神のご意思にかなうことである、という教えです。教会で祈ることだけではなく、日々、自分の仕事を真面目に頑張ることを奨励された教徒たちは、がむしゃらに働きました。働くことが一種の信仰だったのです。
このプロテスタントの勤勉さこそが、現代の「資本主義」のバックグラウンドとなっています。
プロテスタントが広まったのは、ドイツ、イギリスをはじめとする北ヨーロッパの国々です。ちなみにフランスは、いちおうカトリックの国ですが、宗教改革の影響も強かったので、ドイツとイタリアの中間といえます。
プロテスタントの教えが影響を及ぼしたのは、ヨーロッパだけにとどまりません。アメリカ合衆国が経済的な発展を遂げて、世界一の経済大国にのし上がったのも、プロテスタントという宗教的なバックグラウンドがあったからです。
こうして宗教改革から生まれたプロテスタントは、ドイツからイギリス、アメリカへと広がっていきました。
ルターの現代語訳には意訳が含まれており、プロテスタントは「天職」という概念を持つようになります。これは勤勉に働くことで、自分が天国に行けるのか否かを判断できるという考え方です。
この「天職」の概念をもった結果、資本主義が発展していったのです。現在、経済大国となっている国にプロテスタントの国が多いのは、こうした背景があったのです。
以上、読書会でわかった3つのキリスト教とヨーロッパ情勢でした。