ニュースの”なぜ?”は世界史に学べ:3分でわかるアメリカを動かす5つの勢力とは?

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ニュースのなぜは世界史に学べ

アメリカを動かす5つの勢力とは?

①軍需産業、②金融資本、③草の根保守、④福音派、⑤移民の5つです。この5つが何を望み、どの政党を支持しているかを理解すれば、アメリカを理解できます。


ニュースの”なぜ?”は世界史に学べ

初版:2015年12月05日

著者:茂木 誠

アメリカを動かす5つの勢力とは?

アメリカ.001

アメリカには5つの勢力があります。この5つの勢力を理解すれば、アメリカの行動原理を理解し、次の動きを予測できるようになります。

その5つの勢力とは

  • 軍需産業
  • 金融資本
  • 草の根保守
  • 福音派
  • 移民

です。それぞれどういう勢力なのか、本書から引用して解説します。

軍需産業

軍需産業の特徴は「戦争賛成」です。当たり前ですね(笑)

日本人の感覚では信じられないですが、「戦争をしたい」と考えている人は大勢います。なぜなら、軍需企業は戦争によって大いに利益を上げることができるからです。

今のアメリカを支配している最大の利益集団のひとつは、「軍需産業」です。アメリカの軍需産業は、第二次大戦のときに急成長しました。たとえば、ボーイングやロッキード、ダグラスといった飛行機メーカーは、当時、戦闘機や爆撃機をつくって大企業へと成長していきました。
…第二次大戦が終わって冷戦が始まると、軍需産業は、ソ連がいつ攻めてくるかわからないと喧伝し、核ミサイルをどんどんつくって莫大な軍事費を政府(国防総省)から引っ張り出したわけです。
…軍産複合体のもとでは、軍部からの受注で軍需産業がうるおう一方、軍需産業に退役軍人が顧問などの肩書で天下りするといった、癒着が頻繁に行われます。

金融資本

金融資本の特徴は「お金儲けをしたい」です。これも当然です(笑)

そして、お金を儲けるために世界の市場を自由化したいと考えています。例えば、日本に対して金融の規制緩和・TPP加入を望んでいるのは、金融資本です。

また、軍需産業と利益が相反することもありますが、一致することもあります。「利益が出るか否か」が最優先事項なので、「お国のため」という行動原理はありません。アメリカと敵対する国に軍費を貸すこともあります。

アメリカには、軍需産業に匹敵するもうひとつの巨大勢力があります。ニューヨークを中心とする巨大銀行、すなわち金融資本です。
ニューヨークの金融機関はアメリカ人から預金という形で資金を集め、海外へ投資することで儲けています。戦争で壊れた海外の道路や橋をつくったり、あるいは外国の企業を買収して利益を得ているのです。
ニューヨークの金融資本が勢力を伸ばしたのは、19世紀末のこと。JPモルガンという巨大銀行が台頭し、国を動かすほどの力をもつようになりました。
ちなみに、アメリカの二大財閥として有名なのは、このJPモルガン銀行と、石油財閥のロックフェラーです。

草の根保守

中流階級の多くが持っている思想です。西部開拓民の思想が源流にあるため、「自分の身は自分で守る」精神です。

そのため、銃保持に賛成・税金や福祉に反対という立場です。ハリウッドのクリント・イーストウッド監督は草の根保守の1つリバタリアンで有名です。そのため、同監督の映画を観ると、リバタリアンの思想が垣間見えます。

アメリカを動かしている集団の3つ目は、「草の根保守」です。
英語でもグラス・ルーツといって、草の根っこのようにアメリカの大地に根をおろしている保守層(経済的には中間層)のことです。彼らはおもにアメリカ南部や中西部の農村地帯に多く住んでいます。
草の根保守は、歴史的には19世紀の「西部開拓農民」にまでさかのぼります。
開拓農民は、政府からまったく支援を得ることなく、自分の努力と才覚だけで先住民(インディアン)と戦って、荒野を切り開いてきた人たちです。正当防衛のために個人が銃をもつのは当然の権利と考え、銃規制に反対するのもこの人たちです。
基本的に国家を信用しない。自分の身は自分で守るので福祉もいらない。税金も払いたくないという極端な個人主義、自由主義の思想をもっています。彼らのような立場をリバタニアンといって、リベラルと区別します(リベラルも「自由主義」ですが、弱者救済のため福祉の充実を求めます。こっちは民主党の考えです)。

福音派

日本人がイメージする典型的なアメリカ人の思想を持っているのが、福音派です。

WASPと言い、ホワイト(W・白人)・アングロサクソン(AS・イギリス系)・プロテスタント(P・清教徒)がもっとも格式が高いと考えている人たちです。

そして、自分たちが作った理想の国「アメリカ」の思想(自由・人権・平等)を世界中に広めようとし、「正義の国」として振る舞おうとするのも福音派です。

もともとは、イギリスのピューリタンといわれる新教徒がイギリス本国で迫害されて大陸にたどり着いたのが、アメリカの始まりです。メイフラワー号で渡った102人を「ピルグリム・ファーザーズ」(巡礼の父祖)といいますが、彼らはアメリカに 自分たちの信仰を実現する理想国家(=神の国)をつくりたかったのです。
「正しいキリスト教を、アメリカにあまねく広めなければならない」
ここでいう「正しいキリスト教」というのは、プロテスタントの信仰です。…したがって、彼らは神のご意思を実現するためにピュアに暮らし、アメリカ大陸を清めるため、先住民を「一生懸命に」追放したのです。
このピューリタンがさらにいろんな宗派に分かれていくのですが、それらに共通するのは『聖書(福音書)』の教えを絶対と考え、これに反するものを排斥しようとするメンタリティです。彼らは妊娠中絶を罪と考え、同性愛を罪悪視します。このような人たちを「福音派」とか、「宗教右派」と呼びますが、彼らも共和党の強固な支持基盤です。

移民

アメリカは人口の約40%が移民です。

この移民も大きな勢力ですが、移民はユダヤ人とそれ以外(ヒスパニック・アジア・黒人)で分けて考えた方がわかりやすいです。

移民労働者の中でも、政治的に大きな影響力をもっているのがユダヤ人です。
ユダヤ人は、アメリカの人口の割合で3%にも達しません。ヒスパニック(20%弱)、中国系、韓国系、黒人(10%ちょっと)などに比べたら圧倒的に少ない。
しかし、その3%が、非常に政治意識が高いのです。
必ず投票に行くのはもちろんのこと、政治献金をはじめとして、さまざまな政治運動を積極的に行います。イスラエルに好意的な候補を徹底的に応援するのです。
逆に反イスラエル、反ユダヤの立場をとる候補に対しては、容赦ないバッシングをあびせます。電話やファクス、メール、インターネットなどあらゆる手段を尽くして落選運動をします。

移民の中でもユダヤ人が特に政治に与える影響が大きいです。そして、ユダヤ人は反ロシア・親イスラエルという特徴を持っています。

歴史的にユダヤ人は現在のポーランドにあたる地域に多く住んでおり、一時はロシア帝国の領土内でした。そして、金融業で富をつくっていたユダヤ人は、時のロシア政権から度々迫害にあってきました。近年もプーチン大統領は就任後、ロシア人が保有していたロシア国内の企業を次々と国営化しています。こうした歴史が、ユダヤ人の反ロシア感情をつくってきたのです。

経済の自由化によってロシアは経済発展を遂げますが、貧富の差が開き、民衆の不満が高まります。そんな中、エリツィン大統領が心臓病で倒れ、その後継者として登場したのがソ連時代の秘密警察(KGB)出身のプーチンです。
大統領に就任したプーチンは、まずユダヤ系の新興財閥を力ずくでねじり上げました。収賄罪や脱税などの罪で新興財閥のトップを逮捕し、全財産を没収したのです。かつてスターリンがやったように、石油や天然ガスの油田も再び国営化しました。
だから、ロシア人はプーチンに熱狂したのです。
「ユダヤ財閥からわれわれの国営財産を取り返してくれた」と。一方で、アメリカの金融資本、ユダヤ系財閥はプーチンを敵視するようになりました。

民主党と共和党の行動原理とは?

アメリカ.002

アメリカを動かす5つの勢力を解説しましたが、この5つの勢力が民主党と共和党に分かれて支持しています。そのため、民主党大統領と共和党大統領では政策が大きく異なるのです。

  • 民主党:金融資本、移民
  • 共和党:軍需産業、草の根保守、福音派

大きく分けると、上記のようになっています。ただし、移民(ユダヤ人)の中には共和党を支持する人たちもいます。ネオコン(新・保守主義)と呼ばれる人たちです。

なお、ユダヤ人は基本的に民主党寄りですが、共和党を支持する人もいます。民主党は共和党と比べて外交に消極的で、国内の福祉などに力を入れる傾向があるので、「民主党の中東政策は、なまぬるい」と反発するグループがあるのです。このグループのことをネオコン(新保守主義)といいます。
冷戦期にソ連に対して弱腰だった民主党政権から、共和党のレーガン政権に乗り換えて、ソ連きつぶすことを支持したのもネオコンです。冷戦終結後、ブッシュ政権の閣僚としてイラク戦争を強力に支持しました。ウォルフォヴィッツ国防副長官がその代表です。

そのため、「戦争」を考えると、民主党と共和党のスタンスは大きく異なります。

共和党の支持基盤である軍需産業と福音派は「戦争賛成派」です。

軍需産業は戦争によって利益を上げられますし、福音派はアメリカの思想を世界に広める必要があると考えているからです。

しかし、民主党は「戦争反対派」です。なぜなら、いざ戦争の現地に行って命をかけるのはヒスパニックや黒人などの労働系移民が多いからです。

このように政党と支持基盤を考えると、その政策の意図を理解することが可能です。そこで前政権のオバマ大統領と現政権のトランプ大統領についても、1つずつ事例を考えてみたいと思います。

なぜ、オバマ・ケアが生まれたのか?

オバマ大統領は民主党の大統領です。民主党の支持基盤は、金融資本と移民です。

そのオバマ大統領が任期中に行ったもっとも大きな政策は「オバマ・ケア」です。

オバマ・ケアは低所得者に国から補助を出し、全員に(民間の)保険に加入を促す制度です。本当は日本の国民皆保険のように公的な保険制度を成立させたかったのですが、そこまでは実現できませんでした。

では、このオバマ・ケアで恩恵を受けるのは誰でしょうか?

もちろん、民主党の支持基盤である金融資本と移民です。国から補助が出て保険の加入者が増えれば金融資本は儲かります。また、労働系移民には低所得者が多いので、国から援助してもらって保険に加入できることを喜びます。

一方で、共和党の支持基盤である草の根保守と福音派は、この制度に反対しています。

草の根保守は「自分の身は自分で守る」精神です。そのため、福利拡充には反対です。また、福音派も中間層・高所得者が多いため、低所得者の補助のために負担を強いられることになります。

なぜ、トランプは移民に米軍を派遣するのか?

トランプ大統領は「出生地主義」に反対し、移民に対して軍隊を動かしています。

出生地主義とは、不法移民の子どもでもアメリカで生まれればアメリカ国籍となる考え方です。移民の国アメリカでは、建国以来この出生地主義を貫いてきましたが、トランプ大統領は反対しているのです。また、不法移民の入口となっているメキシコとの国境沿いにも軍隊を発動しています。

移民に対して厳しい政策を取っていますが、トランプ大統領が共和党の大統領であることを考えれば理解できます。

共和党の支持基盤である福音派にはWASPがもっとも格式が高いと考える差別意識があります。そのため、移民に対して厳しい政策をとるトランプ大統領は支持されます。

また、軍隊を発動すれば、小規模ですが軍需産業も潤います。トランプ大統領にとって移民は支持基盤ではありませんから、攻撃しても支持層が減るわけではないのです。

ちなみに、移民の中でもユダヤ人は別物です。トランプ大統領の娘イヴァンカの旦那はユダヤの有力家系です。そのため、トランプ大統領は親ユダヤ・親イスラエルのスタンスです。

以上、3分でわかるアメリカを動かす5つの勢力でした。

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