
大切な20代をどう過ごすべきか?
金融資本・人的資本・社会資本の3つの資本を時代に合わせて築いていくのが、幸せになる資本論です。幸福の資本論でわかった戦略・戦術を紹介していきます。
幸福の資本論
初版:2017年06月15日
著者:橘玲
20代で築くべき3つの資本とは?
- 金融資本
- 人的資本
- 社会資本
この3つが20代で築くべき資本です。なぜ、この3つを築くべきかというと、
- 金融資産:「経済的独立」を実現すれば、金銭的な不安から解放され、自由な人生を手にする事ができる。
- 人的資本:子どもの頃のキャラを天職とすることで、「ほんとうの自分」として自己実現できる。
- 社会資本:政治空間から貨幣空間に移ることで人間関係を選択できるようになる。
と述べられています。そして、この3つの資本を築くためには、
- 金融資産は分散投資する。
- 人的資本は好きなことに集中投資する。
- 社会資本は小さな愛情空間と大きな貨幣空間に分散する。
という方針がオススメされています。
それぞれの資本を解説してきたいのですが、その前に「幸せ」について考えてみましょう。
「幸せ」になりたくない人はいないと思いますが、どういう状態が幸せでしょうか?「幸せ」の条件は、一体何でしょうか?
橘玲さんは、幸せには、
- 自由
- 自己実現
- 共同体=絆
が欠かせないと言います。そして、この3つ条件に対応しているのが、
- 金融資本
- 人的資本
- 社会資本
なのです。だから、20代でこの3つの資本を築き始めるべきなのです。それでは、次章以降でそれぞれの資本を解説していきます。
金融資本
- 金融資産とは、(不動産を含めた)財産
のことを言います。
なぜ金融資産が必要かというと、「自由」になれるからです。
「自由」とは「誰にも、何ものにも隷属しない状態」のことで、そのためには一定の条件を満たさなければなりません。この条件とは、端的にいえば、お金、です。
「自由」を経済的な意味で定義するならば、国家にも、会社にも、家族にも依存せず、自由に「生きるのにじゅうぶんな資産を持つこと」になります。これが「経済的独立(Financial Independence)」です。
稀に「お金」を毛嫌いしている人もいますが、お金はとても強力なツールです。資本主義社会に生まれた以上、お金から目を背けることはできません。
橘玲さんは、お金に関して、以下の3つの法則を紹介しています。
- 年収800万円(世帯年収1500万円)までは、収入が増えるほど幸福度は増す。
- 金融資産1億円までは、資産の額が増えるほど幸福度は増す。
- 収入と資産が一定額を超えると幸福度は変わらなくなる。
なので、金融資産1億円・年収1500万円まではどんな人も無条件に目指すべきです。なぜなら、「幸せ」になれるからです。
では、どうすれば金融資産を築くことができるのでしょうか?
これが残念ながら、難しいのです。特に今の日本は難しいです。なぜなら、日本経済はもう成長していないからです。
例えば、現在の日経平均は2万2千円台です。高めの水準で推移していますが、30年前に記録した最高値は未だに更新していません。いつになったら、バブルを越えることができるのでしょうか。
ちなみに、アメリカは80年から20000までの20年間はダウ平均株価は10倍になっています。その後、失速していますが、20年弱で2倍に伸びました。2018年にも最高値を更新し、今も伸びています。
人口が急激に減少する日本で不動産投資は自殺行為ですし、株式市場も成長が止まっています。そのため、投資で金融資産を築くことは難しい時代となっています。
ヘッジファンドのマネージャーとは、きわめて高い知能を駆使し、最高の取引環境とテクノロジーを与えられ、おまけにインサイダー情報にもアクセスできて、金融市場から富を獲得することに人生を賭けているひとたちです。そんな彼らですらゼロ金利の債券を買う以外に投資対象が見つけられないとしたら、なんのアドバンテージもない個人投資家にできることはほとんどありません。
経済成長が右肩上がりなら、個人投資家は株式市場に長期投資することで、(時間を味方につけて)機関投資家を上回る利益を手にすることも可能でした。しかし経済成長率もインフレ率も金利もすべてゼロという超低体温の経済環境では長期投資もほとんど効果はなく、銀行の普通預金を「無料の貸金庫」として使うのがもっとも賢明な「投資法」になるのです。
ゼロ金利やマイナス金利とは、金融資産から生まれる富がやせほそっていくことでもあります。かつてのように預金金利が年5%なら、1億円の預金があれば金利収入だけで年500万円ですから、それで老後の生活は安泰でしたが、いまではそんなうまい話はどこにもありません。
金融資産の価値が減るということは、相対的にその他の資本=資産の重要度が増していくということです。金利収入を期待できないのですから、金融市場から富を獲得するよりも人的資本を労働市場に投資する方がはるかに効果的なのは明らかです。
なので、金融資本については寂しい結論になりますが、働いて稼いだお金をせっせと貯めていくのが、今の時代に合った方法です。
人的資本
- 人的資本とは、働いてお金を稼ぐ能力
のことを言います。なぜ、人的「資本」というのかというと”自らの労働力を市場に投資してリターン(給与)を得ているから”です。
また、重要なことですが、人的資本の投資によって得ているものは、給与だけではありません。同時に自己実現という大切なリターンも得ています。
投資家は、自らの金融資本を金融市場に投資して(リスクを取って)富を獲得しています(そしてしばしば損失を被ります)。同様に、人的資本とは自らの労働力を労働市場に「投資」して給与や報酬という「富」を得ることで、社会資本とはまわりのひとたちとの関係性から「富」を得ることです。
これらを比較すれば人的資本の方が金融資本との類似性が強いのですが、人的資本の活用、すなわち「仕事」から得られるものをすべて金銭に還元することはできません。それは現代社会において、仕事を通じた「自己実現」こそが幸福の条件になっているからです。
社会資本にいたっては、共同体=絆から愛情や友情といった「富」を得ていることは誰でもわかりますが、それを市場価値=金銭に換算することは原理的に不可能です。
ただ、この人的資本が、転換期を迎えています。20世紀までは、大手企業に就職し、1社に投資し続けていれば問題はありませんでした。
しかし、
- 長寿化(100年人生)
- 老後資金の不足(年金・医療制度の崩壊)
- 変化の加速・複雑化
という3つの問題によって、1社に人的資本を投資し続けることは得策ではなくなりました。そのため、橘玲さんはこのような戦略をオススメしています。
あなたがまだ20代だとして、35歳までにやらなければならないのは、試行錯誤によって自分のプロフェッション(好きなこと)を実現できるニッチを見つけることです。会社のなかで専門性を活かせるごく少数の恵まれたひとを除けば、人生のどこかの時点で組織の外に出て、知識や技術、コンテンツのちからで大組織と取引する「フリーエージェント」化が、高度化する知識社会の基本戦略になるでしょう。定年という「強制解雇」によって、誰もがいずれは 会社を追い出される運命なのですから。
そしてこれだけが、知識社会化と並ぶ時代の大きな変化である超高齢化に適応できる戦略でもあるのです。
つまり、
- プロフェッションを実現できるニッチを見つけ、フリーエージェント化することで、定年(65歳の強制解雇)のない働き方にシフトせよ
と仰っているのです。そして、フリーエージェント化した個人が生涯にわたって稼ぎ続け、自己実現をするために、以下の戦略を提案しています。
- 小さな土俵で勝負する
- 複雑さを味方につける
- 変化を好む
これは自然界で弱者の「昆虫」が生き残るために、採用している戦略です。ビジネス界ではフリーエージェントは弱者で大企業は強者となります。そのため、昆虫の戦略はとても参考になります。
小さな土俵で勝負する
強者には侵略できるニッチに「小ささ」という物理的限界があります。弱者はそれを利用して、身体を小さくすることで強者の侵入を防ぐのです。昆虫はこの戦略を上手に使っていますが、ビジネスでも自営業や家族経営まで規模を小さくすることで大企業にはアクセスできないニッチを見つけることができるでしょう。
複雑さを味方につける
戦国時代の合戦では、平地での戦いに持ち込めば多数の軍勢を擁する強者が圧倒的に有利です。そこで弱者は、険しい山や谷のある場所に城を構え、複雑な地形を利用して逆転のチャンスを狙います。
これは、「ルールがシンプルなゲームは強者に有利になる」ということでもあります。
変化を好む
先ほどの複雑さは地形(平面)ですが、こちらは時間軸の複雑さ、すなわち予測の困難さのことです。
生き物の置かれた環境がずっと安定しているのなら、強者はさまざまな戦略を組み合わせることで、弱者のニッチを時間をかけて奪っていくことができます。変化のない安定した環境は生き物にとって過ごしやすそうですが、そこで棲息できる生物の数はじつは少ないのです。海、陸上、空などの大きな空間が安定していれば、そこでナンバーワンになった強者しか生き残れません。
そのため、人的資本については、定年のないフリーエジェントへの転換し、弱者の戦略を採用しながら、自己実現と収入を得ていくのが最善となります。
社会資本
- 社会資本とは、家族や友だちとの”つながり”のこと
を言います。そして、”幸福は社会資本からしか生まれない”ため、とても重要な資本です。社会資本を考えるとき、人間関係は2つに分けることができます。
- 政治空間
- 貨幣空間
この2つです。政治空間は、さらに愛情空間と友情空間に分けることが可能です。それぞれ、どういう意味かというと、
愛情空間
2人から最大でも5人くらいの小さな人間関係で、半径10メートルくらいで収まってしまいます。ところがこの小さな世界が、私たちの人生の価値の大半を占めています。人類は太古の昔から、愛情空間の出来事ばかり延々と語りつづけてきました。小説でも映画でも音楽でも、猫も杓子も「愛」をテーマにしているのはこのためです。
友情空間
友情空間は最大でも20~30人くらいで、半径100メートルほどの人間関係です。地方の若者たちは、中学や高校の同級生でつくられたこのベタな仲間を「イツメン(いつものメンバー)」と呼んでいます。
政治空間まで範囲を広げると登場人物は150人くらいまで増えるものの、それが生得的にヒトが個人を認識できる限界とされています。旧石器時代人は、家族・血族を核とした部族共同体のなかで生まれ、成長し、子どもをつくり、一生を終えましたから、それ以上の人間を「仲間」として個別に認識する必要はなかったのです。
このように解説されています。貨幣空間は政治空間(愛情空間+友情空間)の外側に広がっている世界で、経済活動でつながっていればどこまでも広がっていきます。
そして、幸福への重要度を考えると、人間関係は
- 愛情空間:90%
- 友情空間:9%
- 貨幣空間:1%
の重みです。そのため、橘玲さんは、社会資本については、以下のような戦略をオススメしています。
こうした特徴を考えれば、「幸福な人生」の最適ポートフォリオは、大切なひととのごく小さな愛情空間を核として、貨幣空間の弱いつながりで社会資本を構成することで実現できるのではないでしょうか。これを簡単にいうと、「強いつながり」を恋人や家族にミニマル(最小化)して、友情を含めそれ以外の関係はすべて貨幣空間に置き換えるのです。
そのうえでひとつの組織(伽藍の世界)に生活を依存するのではなく、スペシャリストやクリエイターとしての人的資本(専門的な知識や技術、コンテンツ)を活かし、プロジェクト単位で気に入った「仲間」と仕事をします。
なので、愛情空間のコアな人間関係を最大化し、それ以外は貨幣空間にしてしまうと、幸福を最大化できます。
以上、幸福の資本論でわかった20代で築くべき3つの資本でした。