読書会「通貨の新世界史」でわかったお金の歴史とは?

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通貨の新世界史

お金は、表象的思考と協力の2つの能力を背景に生まれました。

そして、お金はハードマネーからソフトマネーへと発展してきました。現在、裏付けを失ったソフトマネーは通貨供給量を急速に増大させています。

通貨の新世界史でわかったお金の歴史を解説します。


通貨の新世界史

初版:2018年10月10日

著者:カビール セガール

なぜ、お金は誕生したのか?

  • 協力
  • 表象的思考能力

この2つがお金が誕生した理由です。

人類が、なぜ協力してきたのかというと、それは生き残りのためです。自分の利益だけを考えて相手を出し抜くよりも、協力関係を築いたほうが生き残りのチャンスは増えます。

なぜなら、1度の取引であれば、相手を出し抜いて自分の利益を最大化することも可能でしょう。しかし、そんな人と何度も取引をしてくれる人はいません。一人で食事も家も服もすべてをまかなえる人はいません。そうなると、協力をしなければ生きていくことができないのです。

また、表象的思考能力もお金の誕生には欠かせません。なぜなら、食べることもできず、道具としても役に立たない金属や紙をお金として認識することができるのは、この表象的思考能力のお陰だからです。

ここに到達するまでには 何百万年もかかったが、お金の誕生に必要なふたつの要因がようやくそろったのである。それは協力と表象的思考だ。
人類は、協力すれば生き残りのチャンスが増えるという事実を学んだ。そのうえで今度は、生き残りという生物学的な目標の達成を促す象徴的かつ社会的な道具を創造したのだ。こうしてエネルギーという貨幣は商品貨幣に変換され(C-C)、商品貨幣は最終的に硬貨や紙幣に姿を変えたのである(C-M-C)。貨幣は価値の象徴となり、それを使って何を取得できるか一目で理解できるようになった。しかし脳の創造力はさらに進化して、貨幣には芸術的なシンボルが描かれるようになった。過去現在を問わず、貨幣の表面は象徴や印章で装飾されている。旧石器時代の芸術家は洞窟に作品を描いたが、今日の私たちは貨幣をキャンバスにしている。

協力という生き残りのための手段と表象的思考能力によって誕生した「お金」ですが、お金の前身は物々交換だったという話は有名です。

物々交換の時は、狩猟民族は動物を狩り、農耕民族は農作物を育て、両者のニーズが一致したときには取引が成立します。しかし、物々交換ではニーズが一致しなければ、取引が成立しません。そのため、どんなときも価値を共有している「お金」が誕生し、取引をスムーズにしたという説です。

ところが、実はお金の前身は「債務」だったという新説が注目されています。

債務とは、簡単に言えば「借り」です。誰かに親切にされたら、お返しをしますよね?こうしたときの「借り」です。

お金の前身は物々交換ではなく、この「借り」だった可能性が高いのです。そして、実は債務(=借り)は、お金が誕生する何千年も前から存在していました。

ドル紙幣に黒いインクで印刷されている言葉からは、お金のべつの過去が浮かび上がってくる。何世紀ものあいだ経済学者は、物々交換がお金の前身だと主張してきた。しかし実際には、ほかの金融商品が広く普及していた。債務である。硬貨が発明される何千年も前から、古代メソポタミアでは利息付きの融資が存在していた。債務こそお金の前身だったのだ。今日ではお金と債務を別個のものとして考える傾向が強いが、両者は共通の源から発生している。ドルが負債、すなわち連邦準備銀行の債務と見なされることからも、人類にとって貸し借りがいかに大切な行為だったのか理解できるだろう。
なぜそれほど大切だったのかと言えば、債務には金銭的な義務だけでなく、社会的な義務も伴うからだ。

お金には2種類あった!

お金には実は種類あります。ハードマネーとソフトマネーです。

  • ハードマネーとは、商品貨幣と兌換紙幣
  • ソフトマネーとは、不換紙幣

のことを言います。この商品貨幣、兌換紙幣、不換紙幣の詳しい解説は、以下の記事に書いています。ぜひ、併せて読んでください。

参考:読書会でわかった図解!5分でわかる通貨の歴史とは?

簡単に言うと、

商品貨幣とは銀や子安貝、塩など、お金自体に価値のある貨幣です

兌換紙幣とは金や銀との交換が約束されている紙幣です。なので、お金自体に価値はありませんが(紙なので)、価値の裏付けがあります。

不換紙幣とは金や銀との交換も約束されていない紙幣です。なので、価値の裏付けのない紙幣です。

本書では、商品貨幣と兌換紙幣をハードマネー、不換紙幣をソフトマネーと呼んでいます。この区別の理由は、ハードマネーは増刷に制限があり、ソフトマネーには制限がないことにあります。

商品貨幣は、もちろん増刷に制限があります。金や銀を貨幣として使用している場合、新たに金や銀を採掘できなければ、お金を増やすことができません。兌換紙幣の場合も同様です。裏付けとして金や銀との交換を約束しているので、金や銀の採掘量が増えなければ、紙幣を増やすこともできません。

そして、歴史を見るとハードマネーから発展したお金は、現在ソフトマネーにシフトしています。

今日、ハードマネーへの回帰を提唱する銀行家はほとんどいない。融資の提供が限られ、事業が抑制される恐れがあるからだ。いまや貨幣の歴史はソフトマネーへと傾いている。経済学者のグリン・デービスはこれを「質から量へ振り子が揺れ動いた」と表現している。この数世紀で貨幣供給量は大きく増え、それに伴い貨幣の価値は低下した。
ソフトマネーは作りやすさも幸いし、今日では大量に流通している。おそらく国家は、新たなタイプの錬金術をずっと変わらずに実践しているのだろう。

このハードマネーからソフトマネーに移行した決定的な出来事が、1971年のニクソンショックです。

アメリカ大統領はドルと金の交換を約束していたブレトンウッズ体制(兌換紙幣)を、突然終了することを宣言したのです。この時点から、世界は裏付けのない不換紙幣(ソフトマネー)の時代に突入しています。

世界を支配するソフトマネーとは?

ハードマネーからソフトマネーにシフトしていることは、すでに述べたとおりです。

では、そもそもソフトマネーは、なぜ生まれたのでしょうか?本書には、4つの理由が書かれています。

  • 利便性
  • 抽象性
  • 普遍性
  • 権力

この4つです。それぞれ、どういう意味か本書から引用しながら解説します。

利便性

ドル紙幣は金塊や金貨よりも扱いやすい。すでに紹介したが、交換行為は進化の観点から見て有利だった。取引や協力関係の拡大につながる道具には、広く採用されるチャンスが大きくなるだろう。

抽象性

人間は表象的思考能力を発達させたおかげで、価値の源泉を目で見たり手で触れたりする必要がなくなった。生き残りに欠かせない資源の確保を助け、進化を促すことがお金の本来の目的だったが、それが抽象的な形で実現されるようになったのだ。ドル紙幣を手にすると、脳で報酬を司る側坐核の活動が刺激される様子はスキャンによって確認されている。緑色の紙切れが何か価値あるものの象徴であることを、私たち人間は明確に理解できる。

普遍性

社会という超頭脳が世界に広がり相互の結びつきを強めていくと、ソフトマネーを発行する機関が万国共通の金融制度を支える形態が標準になった。脳が何か新しいことを学ぶまでに長い時間をかけるのと同じで、”超頭脳”がソフトマネーを支配的通貨として広く受け入れるまでには千年以上を要した。

権力

ソフトマネーの発行者は、政治や経済に関する目標達成のために貨幣供給量を容易に変更し、望み通りの社会を形成していく。しかもソフトマネーの利用価値は、法的権限のおよぶ範囲に限定することができる。これに対してハードマネーは国境の外でも常に同じ価値を有するので、逃避していくリスクを伴う。言うなれば、ソフトマネーは金融を操る錬金術のようなものだ。発行者は無から貨幣を創造し、行動計画に資金を提供できる。しかも市民から直接税金を取り立てる必要もない。

ソフトマネーの特徴には、”自由度”があります。

「権力」の項目で解説されているとおり、通貨供給量を容易に調整することができます。これはハードマネーにはない利点です。

そして、日本は実は2012年以降大幅に通貨供給量を増やしています。2012年には100兆円だった通貨供給量が数年で5倍になっています。こうした金融政策をとれるのはソフトマネーであるからです。

通貨.001

また、アメリカも2007年のサブプライムローン問題をキッカケに通貨供給量を増やしています。

通貨.003

ちなみに、日本とアメリカが通貨供給量を増やしている背景についても、こちらの記事に書いています。併せて、読んでください。

参考:通貨供給量が5年で5倍!?読書会でわかった対処法とは?

では、こんなに通貨供給量を増やして何も問題はないのでしょうか?不安になりますよね?

結論から言うと、大いに問題があります。歴史を見ると、通貨供給量の増大と経済破綻は繰り返されているからです。

ソフトマネーを使って貿易や商業を刺激すれば、苦境に陥った経済を支えることができる。増税や支出削減など、不人気な政策を決断する事態は回避される。しかし貨幣を取り扱う関係者は誰もが、ソフトマネーのリスクを警戒しなければならない。一九七〇年代には、ハードマネーからソフトマネーへの移行がおそらく引き金となり、スタグフレーションが引き起こされた。低成長と執拗な インフレが同時進行し、一九八一年にはインフレ率が一三・五パーセントに達した。インフレを収束させるため、当時FRB議長だったポール・ヴォルカーは厳しい態度で臨み、失業率が増加した時期にはフェデラル・ファンド・レートを引き上げた。 二○○八年の金融危機に際し、FRBは貨幣供給量を大きく増やしたが、インフレは加熱なかった。しかしそれでも、千年におよぶ貨幣の歴史からは貴重な教訓が得られる。社会がハードマネーからソフトマネーへと移行するにつれ、そして超頭脳が貨幣に関する新アイデアを考案するにつれ、経済が失敗するリスクは高まるのだ。中央銀行関係者にかぎらず私たち全員が、悪魔との取引に伴う危険を認識しなければならない。貨幣のデジタル化が進む今日は、特に注意が必要だ。

いま日本は過去に例がないくらいに通貨供給量を増やしています。その影響は10年・20年後に出ます。どんな未来が来るかはわかりませんが、注意して備えたほうがよさそうです。

以上、「通貨の新世界史」でわかったお金の歴史でした。

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